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久々の会話を楽しみたいという気持ちは分からなくも無いが
-348 朗報は誰の為?-
いつでも出来る様な何気ない日常会話を交わす兄弟、こうやってまともに話す事自体久しく無かったが故にずっと話していたいという気持ちも分からなくもないが兄・ベルディが電話をかけた理由はそんな物ではないはずだと思ってしまう。
イャンダ「それで?今日はテレビ番組や競馬の事を話す為に電話をしてきたのか?」
俺の心中を察したかの様な呆れ顔で本題へと移行しようとするイャンダ、俺だって暇じゃ無いんだぞというアピールとも取れるが先程堂々と「忙しくない」と言ってしまっているので矛盾が発生してしまうのは避けて欲しいところ。
ベルディ(電話)「おいおい、こうやって兄弟同士でまともに話すのは久々だってのにやたらと冷たくないか?」
イャンダ「兄貴・・・、そっちだって接客業なんだからお客さんを放っておいてずっと電話をしてる訳にはいかないだろう?」
当然と言って良いのか分からないが年齢的にベルディの方が社会人としては先輩のはずなんだが、これでは立場が逆になっている様な・・・。
イャンダ「今度またゆっくり酒でも呑みながらでも良いだろう?取り敢えず用事は何かを教えてくれよ。」
相手を傷つけない様に工夫する一面を見ると、「流石は大人だな」とつい俺も見惚れてしまう。それにしてもベルディ、早く本題に入れってんだよ(大体想像が出来るんだが。)
ベルディ(電話)「お前に朗報を持って来たんだからそんなに急かすなって、人間生き急いだって良い事なんて無いぞ。」
イャンダ「あのな・・・、兄貴の言う「朗報」が決して俺にとっての物じゃ無い事は兄貴だって知っているだろう?」
これは2人が魔学校の高等部に通っていた頃の事、突然ベルディが息を切らしながらイャンダのいる教室へと走って来た事があった。
ベルディ(当時)「イャン、朗報だぞ!!」
家で作って来た弁当での昼食を済ませて友人と語り合っていた弟からすれば、兄の行動がどれほど恥ずかしい物だったか。
イャンダ(当時)「何だよ・・・、今丁度良い所だったのによ。」
ベルディ(当時)「それ所じゃねぇよ、今日は食堂のポテトパンが増量になっているらしいんだよ!!しかもいつもより安いしまだ在庫に余裕があるってさ!!」
イャンダ(当時)「兄貴・・・、そんな事ならもう少し早く言えよ馬鹿!!」
当時から魔学校の食堂には安く販売されている定食などで腹を満たす生徒や学生達が多く蔓延っていたが、サービス精神が旺盛である店主が「店に来てくれる全員に腹一杯食べさせてあげたい」という一心で席に座らずとも楽しめるおにぎりや惣菜パンの販売を始めたんだそうだ。その中でも半分に切ったコッペパンに特製のポテトサラダを挟んでいる「ポテトパン」が人気らしい、コロニー兄弟の様に刺激を求めてやってくる者達の為に隠し味としてブラックペッパーや唐辛子を入れている様だが正直言って隠しきれているかどうかは分かりづらい。
ベルディ(当時)「朗報を持って来た兄に向って「馬鹿」は無いだろう、今なら唐辛子増量らしいから早く行くぞ!!」
やはりか・・・、どうでも良い話だが隠しきれていないじゃねぇか・・・。
そんな中で食堂へと一心不乱に走って行く2人、頭の中はポテトパンの事以外残っていない。先程まで受けていた授業の内容を全くもって覚えていない程だ、それ位に人気のパンなんだなと感心する俺達をよそに2人は食堂内へと駆け込んだ。
ベルディ(当時)「おばちゃん、ポテトパン頂戴!!」
おばちゃん「またあんたかい、本当に別の子を連れて来るとはね・・・。」
実はこの日、ベルディはポテトパンを6個も平らげていた為に呆れていたおばちゃんから「他にお客さんを連れてきたらもう1個売ってやる」と言われていた様だ。
おばちゃん「分かったよ・・・、もう1個を売ってやるよ・・・。」
イャンダ(当時)「おばちゃん、俺にも1個頂戴!!」
おばちゃん「ごめんね、今ので売り切れになっちゃったんだよ・・・。」
そう、「朗報」はベルディの為の物だった様でイャンダは利用されただけだったのだ。
弟って損な立場だよな




