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ガチで破談か?
-345 経費の行方-
いつの間にか光の座るテーブルで呑み食いを再開させていた好美の姿を見て拳を握りながら明らかにイラついているのが見て取れる結愛、この後の状況が怖くなりそうな気がしてならないのは自分だけだろうかと思う俺をよそに好美は口をもごもごさせながら平然と話を進めていた。因みに右手にはおつまみの卓上キムチ、そして左手にはマッコリを握っていたのでもう仕事の話をまともにする気などさらさら無い事が見て取れる。
好美(当時)「貝塚運送(結愛の所)って最近大型と小型の冷蔵車を導入したって言ってたよね、それって使えないの?」
結愛(当時)「全く・・・、何処でそれを聞いたんだよ・・・。確かにそうだけどさ、お前顔が赤い上に口に入ってるものを飲み込んでから言えよな。何処からどう見ても女を捨てた様にしか見えんぞ。」
好美(当時)「何でよ・・・、結愛には言われたくないもん。」
誰か、コイツに「1度自分の姿を鏡で見てみろ」と言ってはくれないでしょうかね・・・。
結愛(当時)「誰が捨てたってんだよ!!俺は何時でも自分が女である事を忘れない様にしてんだぞ!!」
あの・・・、すみませんけどヒートアップしている場合じゃないと思うんですが?
結愛(当時)「コイツが冷静に対処している事が癪に障るが仕方がねぇ、それで俺達にどうしろと?」
好美(当時)「だからね、さっき言ってた冷蔵車でバハラさんの白菜やヤエルさんのキムチを運んでくれれば良い訳よ。勿論お金は払うから頼むよ。」
結愛(当時)「当然だ、こっちはボランティアでやってるつもりは無いんだからな。」
好美(当時)「流石は経営者の鑑だね、尊敬しちゃう。」
結愛(当時)「馬鹿・・・、そんなに褒めても何も出ねぇぞ?運送料2割引きが限界だ。」
好美(当時)「やりぃ・・・、その言葉を待ってたの。」
結愛(当時)「げぇっ・・・、これが本音(狙い)だったか・・・!!」
何となく結愛のチョロさが垣間見えた所で商談に戻る好美達、2人だけで盛り上がるのは良いが龍達がいる事を決して忘れるなよな。
好美(当時)「一応大型の冷蔵車でバハラさんの畑で採れた白菜の内4割を「ビル下店(私の店)」に、そして別の4割をヤエルさんの家まで運んで欲しいのよ。それで出来上がったキムチの1部を小型でここに運び直して欲しい訳、勿論ヤエルさん自身が作ったキムチを小型で運んできてからという事が前提になるけどね。」
知らぬ間に企んでいた計画を1人淡々と語る好美、しかしこれに関してはキムチを作る本人が黙ってはいなかった。
バハラ(当時)「待ちな、いくら何でも店に8割は多すぎるよ。責めてヤエルの家へと運ぶ分を「5割」にしておくれ、でないと店を回しながらでは仕込みなんて出来やしないよ。」
周りからすれば少し自己中心的な発言だと思われるが、バハラ自身にはちゃんとした理由があった様だ。
ヤエル(当時)「バハラ、私はそんなにキムチばっかり作れないよ。販売用の浅漬けだって作る必要があるんだから考えておくれ。」
店に来る客全員が辛い物が得意だとは限らない、そう言った事をしっかりと考慮に入れていたヤエルは販売用のキムチの隣で同じ畑で採れた白菜を使った浅漬けも販売していた。
バハラ(当時)「その浅漬けだよ、私ゃ昔あんたに食わせて貰った浅漬けの味を未だに忘れる事が出来なくて店にも置けないかなと思ったのさ。勿論仕入れ値は弾まして貰うよ。」
好美(当時)「ちょ・・・、ちょっと・・・!!」
金に関しては誰よりも黙っている訳にいかない好美、商売に対する必死さが伝わってくる様で良い事なのだがどれだけ儲けるつもりなのだろうか(と言うか「金の亡者」という異名がこの世界で1番に合う人間となって来ている気がする)。
好美(当時)「必要経費を出来る限り削減していかないと利益が出ないじゃない!!」
バハラ(当時)「「必要経費」って・・・、あんたこれを見てもそんな事言えるのかい?」
好美(当時)「えっ・・・?」
懐から物凄い長さのレシートを取り出したバハラ、何となく嫌な予感が・・・。
バハラ(当時)「これは好美ちゃんの酒とおつまみの分だよ、全部原価ギリじゃないか。」
好美(当時)「い・・・、いや・・・。その・・・、ねぇ・・・。」
あれ・・・、論破されてる?




