㉝
ピューアは車に乗り込むために自らに魔法を施した。
-㉝ 人魚の昔の姿-
真希子は言われた通り待っていると驚愕した、目の前にいる人魚が突然光り出して次第に尾鰭の部分が足へと変化した上に衣服まで出現したでは無いか。ただ次の瞬間、真希子の驚愕は落胆へと変わってしまった。別に悪いと言う訳では無いのだが、ピューアが着ていたのは週末にゲートボールを楽しむお年寄り達が着ている様な小豆色のジャージだったのだ。正直、意外というか何というか・・・。
真希子(当時)「あんた・・・、他に服無かったのかい?」
ピューア(当時)「私、休みの日はいつもこうなんです。家に籠ってずっと酒吞んでるんで。」
真希子(当時)「とは言っても外出用の服位はあるだろう?」
ピューア(当時)「あまりお洒落に興味無いからお金かけたくなくて。」
真希子(当時)「まぁ、あんたが良いなら良いか。」
それから2人は遊歩道を数分程歩いて広い駐車場へと出た、しかし真希子の物らしき車は1台も無い。
ピューア(当時)「あの・・・、お車って聞きましたけど。」
真希子(当時)「うん、すぐ出すからね。折角だから今日はこいつにするかね。」
真希子が『アイテムボックス』から愛車・スルサーティーを出すと、ピューアは顔を赤くしていた。どうやら目の前の車に惚れこんでしまったらしい。
真希子(当時)「いつもは軽バンなんだけど偶に乗らなきゃオイルが腐っちまうからね・・・、ってあんたどうしたんだい?突っ立って無いで早くお乗りよ。」
ピューア(当時)「いや・・・、こんな格好良い車初めてなんで・・・。」
真希子(当時)「はは~ん、さては惚れこんじまったんだね。でも嬉しいよ、ありがとう。」
真希子は笑みを浮かべながら運転席へ乗り込み、クリスタルに魔力を流した。もう既にこっちの世界様に改造を施していた様だ。魔力を得た車がけたたましい排気音を出し始めたのでギアをセカンドへと入れた。
ピューア(当時)「マニュアルなんですね、やっぱりスポーツカーはこうでなきゃですね。」
真希子(当時)「おや?こういうの好きなのかい?私ゃ普段乗る車もマニュアルって決めているんさ、やっぱり車が好きだからかな。」
ピューア(当時)「私もいつかこういうの欲しいんですがね、お金がなかなか貯まらなくて。」
真希子(当時)「その様子じゃそうだろうと思ったよ、仕事は何しているんだい?」
ピューア(当時)「銀行員です、一応正社員で。」
すると、ニクシーの腹の虫が大きく鳴った。何も食べずに出て来たのだろうか。
真希子(当時)「あら、お腹空いてるみたいだね。何か食べては来たんだろ?」
顔を赤らめながら答えるピューア。
ピューア(当時)「ポ・・・、ポテチを1袋・・・。」
真希子(当時)「あんたね、どんな食生活をしてるんだい?」
ピューア(当時)「自炊しないんでカップ麺が中心ですね。」
真希子(当時)「そんなんだからこういう時に腹が減るんだよ、どれ、私と一緒においで。トンカツでも食べようじゃないか。」
ピューア(当時)「あの・・・。」
頭を掻いて何処か言いづらそうにしているピューア。
ピューア(当時)「このトンカツ屋、私の実家なんです・・・。」
真希子(当時)「何だって?!トンカツ屋の自炊せずにカップ麵ばっかりってだらしないったらありゃしないよ、仕方ないね・・・、私が何とかしますかね。」
2人はピューアの実家でトンカツを楽しんだ後、すぐ近くにあるキッチンスタジオへと向かった。もう既に真希子の名前で予約がされていた。
ピューア(当時)「ここで何するんですか?」
真希子(当時)「私が料理を教えてやるよ、せめて一通りの家庭料理は出来る様になっておかないとね。」
そうして今に至る、こっちの世界でも真希子のお節介は顕在している様だ。
ピューア「あの人には恩返しをしなきゃな、どれだけ感謝してもしきれないよ。料理を教えて貰った上に車まで貰っちゃったんだもん。」
守は母に関する良い話を聞いて嬉しくなり、心が温かくなっていた。
人魚との酒が美味しい気がして来た守。