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結愛も社員に優しい人間だ、皆その事を理解しているが故に・・・
-329 お人好し達-
貝塚運送を設立してから数週間後、結愛はヒドゥラに決して無理をして欲しくないという理由で本社に「秘書課」を新設していた。極端な人員不足を起こさない事を考慮する為に数々の課から優秀な社員を1人ずつ引き抜き今までラミアが1人で行っていた作業を割り振っていたのだが、本人達にとって未だに慣れない事が多かったので車両のメンテナンスの空き時間を割いてヒドゥラが所々サポートしていた様だ。本人曰く「一緒に行った方が仕事の流れ等を説明しやすい」との事だが、これだと意味がない気がしてならない。
美麗の話を聞いて気が気でなかった結愛は取り急ぎ本社の秘書課へと連絡を試みたが、誰も電話に出なかったので着の身着のままで向かう事に(と言うかヒドゥラに直接『念話』を飛ばせば済む話だと思うのだが)。
結愛「仕方が無いな・・・、ちょっと様子を見て来るわ・・・。すぐ戻るから3人はお茶でも飲んでいてくれないか?」
好美「分かったけどさ、お茶なんて皆持って来て無いよ?」
結愛「え・・・、そうなのか?」
何となく嫌な予感がした結愛は後頭部を掻きながら『瞬間移動』する事に、大したことが無いと良いのだが・・・。
結愛「よいしょっと・・・、あれ?」
最近改築を行い広くした秘書室には誰一人いなかった、何処からどう見ても「もぬけの殻」という言葉がぴったりの状態だ。一先ず結愛は美麗の前で演技をしてた時の呼び名で車両メンテナンス係兼秘書長を呼んでみる事に、ただ相手の方はちゃんと覚えているのだろうか。
結愛「ヒドゥー、いるんだろ?俺だ、結愛だぞ?」
すると部屋の奥で何かしらが蠢く気配がした、ヒドゥラが『人化』を解除して何処かに忍び込んでいるのだろうか。
結愛「何だ・・・、まさかまた仕事サボってかくれんぼをしてんじゃねぇだろうな?この前あれ程口を酸っぱくして「休憩時間だけにしろ」って言ったのに懲りない奴らだな。」
これは秘書室が広くなったばかりだった日の事だ、ラミアである自らの特性を活かしたヒドゥラは新たに出来た部下たちと交流を深める為に「1人でも自分を見つけて捕まえることが出来たら賞金を与える」という何とも子供っぽいゲームを行っていた。ただ各々のデスクで書類が山積みになりかけていたのを結愛に目撃された為に「これは流石に他の社員たちに示しがつかないので休憩時間だけにしよう」という決まりになったのだが本人達は懲りていない様に思われる、でも以前とは違って今回は誰一人秘書室にいないので社長は不審に思っていたが前日まで山積みになっていた書類が全て片付いていたので一安心している一面もあった。
結愛「まぁちゃんと仕事はこなしているみたいだから良いか・・・、って誰が言うか!!」
するとそこら中に響いた結愛の声を聞いたヒドゥラが慌てて出て来た、結愛の前ではいつも必ずと言っても良いほど『人化』するのに忘れていた位なので只事では無い事が起こっているのが分かる。
結愛に素早く近付いた秘書長は何かしらに気を遣っていたのか、小声で話しかけた。
ヒドゥラ(小声)「結愛、悪いけど少し声のボリュームを下げてくれない?」
美麗達との一件があってからというもの、近頃プライベートでちょこちょこ会う事が多くなった様なので2人はすっかり上司と部下の垣根を超えた関係となっているらしい。
結愛(小声)「分かったけど何があったんだよ、ちゃんと説明してくれなきゃいくら俺でも分からねぇだろうが。」
ヒドゥラ(小声)「ちゃんと言ってなかったのは謝るよ、今から説明するから良かったら一緒に来てくれる?」
改めて『人化』した秘書長について行った先の部屋は他の部屋に比べて少し暖かく過ごしやすくなっていた、ただそれ以上に驚いたのはそこに今日休みの者を含めた秘書課の社員達が全員集まり真ん中で赤ん坊達が数人で眠るベッドを囲んでいたという事だ。
結愛(小声)「これどう言う事だよ、秘書課の社員って全員子持ちだったのか?」
ヒドゥラ(小声)「違うわよ、美玖さんの施設内で生まれた赤ちゃん達を一時的にだけど私達で預かっていたの。勿論仕事をこなしながらだけど、それが簡単じゃなくてね。」
結愛(小声)「分かったよ・・・、それは認めるけどさ・・・。」
ヒドゥラ(小声)「な・・・、何よ・・・。何か文句でも?」
結愛(小声)「いや・・・、何で社長室(俺の部屋)なんだよ・・・。」
使っていたのが自分達の部屋でも無かったという・・・




