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ヌラルの本格的な学生生活の初日
-321 個性を大切にしたいから-
次期店長との顔合わせを終えたヌラルは次の日、初日が故の計らいで特別に通勤中の美麗の車で貝塚学園へと向かった。次の日以降は通学バスで通う事になるが一先ず今日は1日の流れの確認や1週間分の履修登録を中心に行うので理事長でもある結愛自らによる案内の下で大学を回った。ただヌラル自身は元々ここに入りたい、そして勉強したいという学部学科があったのでそちらへの案内が中心に行われた様だ。
結愛「ヌラル、他にもいっぱいあるけど本当にここで良いのか?」
ヌラル「ああ・・・、ここで、いやここが良い。俺の将来の事を考えるとここで勉強するのが1番かなと思ったんだよ。」
ヌラルは幼少の頃から黒龍族への迫害が無くなった時に自分が生まれ育った村で採れた食材をふんだんに使った物を提供する料理屋を母・バハラと出したいと思っていたそうだ、その為にこの世界共通で使うことが出来る調理師免許を取得したいと考えていたらしい。
結愛「お前が良いなら俺は構わないけど、どちらかと言うとやっぱり黒龍族の特性を生かせる魔術部の闇魔術学科に行く方が良いんじゃ無いのか?」
ヌラル「いや、俺は料理科に行くって元々から決めていたんだ。決意を曲げる様な事はしたくない、申し訳ないけど止めないでくれ。俺は母ちゃんが作ってくれていた様な美味い料理を作って人を喜ばせる仕事がしたいと思ったんだよ、もしかしてだけど駄目かな・・・。」
ヌラルの最後の一言を聞いて先程自分が言った言葉を反省した結愛、種族関係なく美味しい物を作ったり食べたいという気持ちは持つべきだし大切にすべきだと改めて思ったとの事。
結愛「駄目な訳無いだろ、良い話じゃねぇか。俺に出来る事があれば何でも協力させてくれよ、その1つが学園への推薦なんだからよ。」
結愛は心の片隅で考えていた、バハラが「暴徒の鱗 ビル下店」の副店長として働く事自体がヌラルの夢を叶える為の布石へとなってくれれば・・・。
ただその為に是非とも聞いておきたい質問が1つ・・・。
結愛「あのさ・・・、ちょっと良いかな・・・。」
ヌラル「何だよ唐突に、改まってどうしたってんだよ。」
少し抵抗感を持ちながら聞き返すヌラル、結愛は何を聞こうとしていたのだろうか。
結愛「至って単純な事なんだ、ヌラルはお袋さんと料理するのが好きなのか?」
幼少の頃、母・莉子との思い出が全くなかったのでそう言った経験や記憶が無い結愛には決して単純な質問では無かったが相手が答えやすくなる様に工夫したと思われる。
ヌラル「そうだな・・・。」
目を閉じて微かな記憶を辿る混沌龍、何となくだが社長はその光景が羨ましく思えた。
ヌラル「ガキの頃だけど、母ちゃんと畑で育てた野菜とかを使って一緒に色々と作るのが好きだったんだよ。何て言えば良かったのかな・・・、周りの目を気にせず楽しく過ごせた唯一の時間というか。その「時間」をこれからも大切にしたい、そして伝えていきたいって思ったんだ。」
ヌラルが本人なりに将来を考えていた事を嬉しく思う結愛はその強い意志に対して協力はしても決して邪魔になる様な事はしたくないと誓っていた、言い出しっぺは好美だが母・バハラが副店長として働く事も軌跡の1つになればと思う様になっていたらしい。
結愛「「母娘だから出来る手料理を出す店」か・・・、よく考えればずっと前だけど「暴徒の鱗」自体も各々の支店で独自のコンセプトを持った営業を始めるって聞いた事がある様な・・・。」
実は各々のコンセプトを持ってでの営業を試しに始めた第1号店として開店したのが好美の「ビル下店」だったそうだ、元々オーナー(好美)の酒好きが高じて始まった「中華居酒屋」の形態だったがシューゴやパルライが想定した以上に好評だったのでこれからも新たな店を開くコンセプトとなる物を探していた様だ。
例えば渚が経営する屋台②号車は「美人女将のいる屋台」、そして今度開店する「ダンラルタ王城店(仮)」は「国王があらゆる国民を想ってプロデュースした店」という様な。
結愛「うーん・・・、シューゴさんに提案する必要があると思うけどきっと採用されると思うよ。温かい雰囲気のお店って皆が欲しがっていたからね・・・、ってどうしたんだよ。」
混沌龍は嬉しかった、ここまで真摯になって自分の事を考えてくれる人間がいた事が。
これからの充実しそうな毎日が楽しみで仕方が無かったヌラル




