㉛
守は今までの思いが溢れ出していた。
-㉛ 好美と真希子の新事実-
懐かしい服を着た自分の姿を見て涙する恋人を見て、思わず好美は笑みがこぼれていた。
好美「何で泣いてんの、大袈裟だよ。」
守「悪い、色々と思い出してな。」
守はこの姿が見たいが為、というより好美に会いたいが為に自分がどれだけの苦労をしたかを思い出していた。好美の事故の後から起きた良かった事も悪かった事も全て含めて。
守「生きてて、本当に良かった・・・。」
好美「何言ってんの、私達一度死んでるじゃん。」
皮肉を言っている様だが間違ってはいない、死んでなかったらこの世界にいる訳が無い。
守「ごめん、言葉が足りなかった。こっちの世界で好美が生きてて良かったと思って。」
好美「でも結愛から私の事聞いてたんでしょ、それで安心してたんじゃないの?」
結愛が元の世界に現れた時、テレビで「貝塚財閥代表取締役社長死亡」のニュースが流れていたので結愛の存在すら半信半疑だったというのに、その結愛から好美について聞いたところでどう信じろと言うのだろうか。
守「誰だって思わないだろう、死んだ先にこんな世界が広がっているだなんて。そりゃあ「あの世って良い所なのかな」って考えた事はあるよ。でもまたこうして好美に会えるとはな、俺って幸せな人間なんだな。」
好美「元の世界で結構苦労したって言ってたじゃん、きっとそれが報われたんだよ。」
守「そうだな、そう言う事にしておこう。」
好美「何それ、やだ。」
こう言いつつもまだ笑っていた好美は、先程の言い争いの間にすっかりぬるくなってしまったビールを掴み取った。
好美「あらま、でももう一度冷やせば良いかな。」
そう言うとピューアから教えて貰った『冷却』の能力でキンキンになるまで冷やした。
守「お前、そんな事も出来るんだな。」
好美「エヘヘ、一緒に働いている人魚の人に教えて貰って『作成』したんだ。今度守にも紹介してあげるね。」
次の瞬間、好美はある事を忘れていた事に気付いた。
好美「不味っ!!忘れてたよ、一度ぬるくなったビールって吞めたもんじゃないのよね。」
すると、好美の様子を『察知』していた先程のニクシーから『念話』が飛んで来た。
ピューア(念話)「好美ったら、相も変わらずドジなんだから。」
好美(念話)「笑わないでよ、仕方ないじゃん。」
2人の会話が聞こえていたのか、守は首を傾げながら尋ねた。
守「どちら様?」
好美「さっき言ったニクシーのピューアだよ、ずっと私達の様子を伺っていたみたい。」
守「確か・・・、今度紹介するって言ってた人だよね。」
すると好美は「暴徒の鱗」のシフト表を片手にピューアに『念話』を飛ばした。
好美(念話)「ねぇ、今夜休みでしょ?一緒に呑まない?紹介する手間省けるし。」
ピューア(念話)「何それ、でも暇だから行くわ。」
そう言うと『瞬間移動』で2人の目の前に現れた、その姿は何処からどう見ても休日のジャージ姿の人間にしか見えなかった。髪が少し青みがかった金髪だということ以外は。
ピューア「へぇ・・・、この人が守君か。何よ好美、良い男じゃない。妬いちゃうわ。」
好美「良いじゃん別に、取り敢えず呑もうよ。」
3人は冷蔵庫からビールを取り出し、すぐに開けてテーブルに向かう事無く一気に煽った。
ピューア「ああ・・・、美味し・・・。気分良いから何か作ろうか、師匠直伝のやつ。」
好美「良いね、じゃあ守も何か作りなよ。真希子さんから教えて貰ったやつ。」
守「えっ?!この人の師匠って母ちゃんなの?!」
守、また新事実を知る。




