303
またですか・・・
-303 鰐梨-
今に始まった事では無いのだが店の経営に関して相変わらずの横暴さを発揮する好美、ここまで来てしまっては誰が何を言おうと聞く耳を持たない。
ヌラル「好美・・・、先に提案した俺が言うのも何だがやっぱり母ちゃんはダンラルタの新店で雇って貰う方が良いと思うんだ。流石に毎回飛んで通勤するにしても国境を跨ぐんだから大変になっちゃうよ。」
各国が1本の高速道路で結ばれているが故に車で2~3時間程度で移動出来る位近くなっているのは確かだが龍からの目線からすると仕事前に飛んで通勤するのは大変な様だ、その上黒龍族特有の悩みもあるみたいで・・・。
ヌラル「それにさ・・・、差別と迫害が無くなったのは良いけど俺達の場合は混沌龍(元の姿)だと流石に目立って仕方が無いから少し嫌になっちゃうんだ。」
「いち住民として生きる権利」を得た今でもクァーデン家の嘘による物だった迫害のお陰で未だに他種族の目線が怖いと言う黒龍族が全くいないと言えばこれこそ嘘になってしまう、これはダンラルタ王国の新店で雇う時でも弊害になり得る可能性がない訳ではなさそうだ。ただ好美はネルパオン強制収容所で見たヌラルの姿を思い出して尋ねてみる事に。
好美「ねぇ、龍って『人化』した状態で飛べる訳じゃ無いの?」
ヌラル「いや別に飛べない訳じゃ無いけどさ・・・、この前も散歩の感覚で空を飛んでいた鳥獣人族が泥棒と勘違いしたおっさんに通報されて冤罪で捕まっていたのを忘れたのか?」
結愛「ああ・・・、それな・・・。忘れる訳ねぇよ、だって・・・。」
結愛がおどおどしていたのも無理は無い、これは3日前の事なのだがバルファイ王国でその日有休を取得していた貝塚財閥の従業員が勘違いした男性に通報されたというニュースがテレビで流れていた。因みに男性に通報した理由を尋ねてみると、まさかの「手に持っていた風呂敷が唐草模様だったから」だそうだ。
結愛「実は俺もその従業員がこの前誕生日だったから新しい鞄をプレゼントしたんだが「新品を使うのは勿体ない」って今でもずっとボロボロになった唐草模様の風呂敷を使っているみたいなんだ、どうやら昔亡くした奥さんに貰った大切な物らしいから俺も止めるに止めれなくなっちゃって。」
実は俺もそうなのだが昔から大切に使って来たものが手になじんでいたり思い出のある品物だと新しい物をなかなか渡されても取り換える事が出来ない、思い出の詰まった大切な品を本人から引き離すのはあまりにも酷な話だ。
好美「だったらバハラさんがうちに住めば良いんじゃない?」
マンションの大家である好美がこう言ったのは良いが結愛やヌラルにとっては聞き捨てならない一言だった、確か今から数分前の事だった様な・・・。
結愛「おい待てよ、確かさっき「満室」だって言ってたのは好美自身じゃないか。」
ヌラル「そうだよ、どうして俺は駄目で母ちゃんは良いんだよ。」
ヌラルは自分が差別された様で嫌な気分だった、しかし好美には思った以上に単純だがしっかりとした理由があった。
好美「もう・・・、2人して何言ってんの。私が「満室だ」って言ったのは飽くまで貝塚学園の寮にしている下層階の事で他の上層階はまだ空いているから大丈夫だよ。」
結愛「そうか・・・、悪かったよ。部屋が空いているならヌラルも一緒にそこに住めば良いじゃないか、貝塚学園への通学も直通のバスがあるから問題無いぜ。」
好美「それとさ・・・、ちょっと待ってくれる?」
1人湯船から上がった好美は知らぬ間にバルコニーにも設置した内線電話の受話器を取って何処かへと話し始めた、おいおいそのままでは湯冷めするから『念話』の方が良いんじゃ無いのか?
好美「内部事情なんだから2人に聞かれる訳にもいかないでしょ、あんたって本当に分かって無いね。それでヌラル、今電話で聞いたんだけど「ビル下店」のバイトの1人が大学卒業するからってもうすぐやめるみたいなの。良かったらあんたもうちのバイトに入ってくれない?」
ヌラルにとっては本当に嬉しい言葉だった、学園直通バスがあるし店が家の真下だからバイトが終わればすぐに帰れる上に母と同居する事になるので毎日の食事に困る事も無い。
ヌラル「やった、これでまた鰐梨とトマトのバジルサラダが食えるぜ!!」
本当に野菜ばっかりなんだな




