㉚
好美は酒の力を借りて全てを吐き出すつもりだった。
-㉚ 大好きが止まらなくて-
昼間から呑んでいたが故の酔いと、堰が崩れたかの様に涙となって溢れた会えない間に積もっていた想いが故に、好美は一層顔を赤くし、誰にも止める事が出来なくなっていた。それどころか守の袖を掴む手が先程よりも強く、そしてより小刻みに震えていた。
好美「ねぇ、会えない間私が守の事を忘れていたとでも思っている訳?!」
守「そんな事、一度も考えた事が無い、本当だ!!」
確かに嘘は言っていない、その上真帆と付き合っていた時も守の心の片隅にはいつも好美がいた。
好美「私がどれだけ頑張ったと思ってんの?!「1人で」って言えば嘘になるよ、こっちの世界に来て不安だった私を支えてくれた人達のお陰で今の自分がいるのは分かるよ。でもね、たった1人、守だけがいなかったの!!それがどういう意味か分かる?!」
守は恋人が涙ながらに放った言葉の重さを感じていた、好美が袖を掴むのをやめて全力で守の事を抱き始めたからだ。
守「俺もだ、一秒でも一瞬でも好美の事を忘れたことは無い。ただ島木さんや結愛から好美の書いた手紙を受け取って読んだ時、どうしようかと思った。「こっちの世界に来るな」って書かれていた時、少し辛かった。」
好美は目を大きく開いた不器用さが勝ってしまったが故に守に贈る言葉の表現を間違っていた様だ。しかし、今は退く訳にはいかなかった。
好美「守に生きていて欲しかったの!!守にずっと笑っていて欲しかったの!!幸せでいて欲しかったの!!」
守「俺の幸せに一番欠けてはいけない物が欠けている時点で、俺が幸せでいる事が出来ると思うか?!」
守の言葉は核心を突いていた、しかし未だ好美は退こうとしない。
好美「「欠けてはいけない物」って何?!もしそれが「恋人」だったら真帆がいたじゃん!!」
結愛から元の世界での守の事を聞いていたので全てを知っていた好美は涙ながらに想いをぶつけ続けた。
好美「いい気味だよね、私の目の前で他の女とキスしたり、私が死んでからすぐに真帆と付き合いだしてさ。2回も裏切っておいて、簡単に許すとでも思ったの?!」
好美が根に持つ気持ちも分からなくはない、ただ「守にとっての1番」が好美である事をずっと理解していたのは他でも無く1番身近にいた真帆だったのだ。ただずっと守が辛い想いをしていた事は結愛を通じて好美に伝わっていたらしい。
そして今度は逆に、守が想いを直接語り始めた。
守「いくら事故だったからって最初にいなくなったのはどっちだよ!!あれからお前がどれだけ周りの皆を泣かせたか分かってんのか?!俺がどんな気持ちであの工場長への復讐を果たしたか分かってんのか?!」
好美「工場・・・、長・・・、が・・・?あのデブ・・・、許さない!!」
守が好美に事故の起こった理由を話すと、好美は強く拳を握った。それを見た守は、ある思い出の品を『アイテムボックス』から取り出して話した。
守「島木さんも同じ事を言っていたよ、その証拠にほら。」
守は好美に思い出の品を手渡した。
好美「2人共、大事に持っていてくれたんだ・・・。」
そう、守が手渡したのは学生時代当時の守が好美に最初に買ってあげた服だったのだ。
好美「ねぇ、私この世界に来て痩せたんだよ。着てみて良い?」
好美は意気揚々と自室へと向かった。そして数分後、あの初々しかった頃の姿で守の前に現れて当時友人達に聞いた時と同様に尋ねた。
好美「どう・・・、かな・・・。」
守「やっぱり・・・、買ってよかった・・・。」
守は当時の事を思い出して涙した。
守にとって、これほど嬉しい涙は無かっただろう・・・。




