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海斗の今が気になって仕方が無い莉子
-288 息子の上司-
元の世界とこっちの世界を合わせると何十年も会っていないと言うのだから母親の知らない間に息子に何かしらの変化があってもおかしい話では無い、だと言うのにどうして莉子はあそこまで驚いていたというのだろうか。
結愛「どうしたんだよ、兄貴は調理師免許を取得したんだから拉麵屋で働いていてもおかしい話じゃないだろう?」
莉子「あ、ああ・・・。確かにそうだね、調理師免許を取得しただなんて凄い話だね。それにしてもどこのお店で働いているんだい?母ちゃんも一度は食べに行かなきゃだよ。」
単純に店の客として味を見に行くのか、それとも息子の成長した姿を直に見に行こうか、そう言った意味を含んだ一言に聞こえて仕方が無かった結愛は娘として是非とも自ら案内してやりたいという気持ちが湧き上がっていた。ただふと思い出した事が1つ。
結愛「ネフェテルサ王国にある「暴徒の鱗」って店だよ、街で貝塚学園の寮とマンションになってる1番大きなビルの1階に店があって人気になっているんだ。」
莉子「ああ・・・、聞いた事があるよ。確か「暴徒」と「龍の鱗」が合併して出来たっていう店だよね、私達と同じで転生して来た日本人の女の子がオーナーをしてるって。」
結愛「そうなんだ、俺と同い年の好美・・・。」
好美「何知らない人に私の噂を流してんのかな・・・、結愛社長・・・?」
結愛「好美!!い・・・、いや違うんだ!!ただ美味い店を紹介してただけで・・・!!」
好美がこう言った酒の席に来ない訳が無いという事は明白なはずなのに登場が唐突過ぎてつい驚いてしまった結愛社長、慌てふためいていたせいか説明不足になってしまった。
好美「美味しいお店を紹介していただけなんだったら私の事を紹介する必要無くない?私は別に良いんだけど。」
『状態異常無効』のお陰と推測されるが正論過ぎて酒が入っているとは全く持って思えない、まさかつい先程『瞬間移動』で来たと言うのか?
莉子「結愛、突然現れたこの子は誰なんだい?まさかと思うけど・・・。」
結愛「その・・・、「まさか」だよ・・・。さっき言った拉麵屋のオーナーでマンションの大家もしている倉下好美本人だ、海斗が世話になっているのはこいつなんだよ。」
莉子「へぇ・・・、この子がかい・・・。人は見た目によらないもんだねぇ。」
莉子は改まった様に好美の顔を見てポカンとしていた、ただ「何でもあり」のこの世界では十分にあり得る話だからそこまで驚く事は無いと思うが?
好美「結愛、この人誰?確かさっき前で挨拶してたっぽいけど。」
結愛「隠すつもりは無いから別に良いんだけど、俺と兄貴の母ちゃんなんだ・・・。ほら兄貴って今夜夜勤だろ?何処で働いているかって言う話になってさ。」
好美「えっ、この人が結愛達のお母さんなの?美人さん・・・、ですね。」
莉子「あらま、上手い事言ってくれるじゃないか、そんな事言っても何も出ないよ。」
何となくだがこの世代のおばちゃん達はどうして皆同じ口調なのだろうか、今イジるべき事では無いのだが。
莉子「あんた、「おばちゃん」じゃなくて「お姉さん」だろ?」
す、すんません・・・。おいおい、そこまで同じなんかい・・・。
好美「まぁ失礼な奴は置いといて、海斗さんなら1人でホールや調理場を同時に回せますから十分任せておいて大丈夫な位に信用出来る人になっていますよ。」
莉子「でも1人ではなかなか無理な話だろ、この時間帯は誰も食事に来ないのかい?」
好美「深夜で雇っているアルバイトもいますので大丈夫ですよ、それに本人も今は社員ですがアルバイトの時から働いていますので仕事に大分慣れているみたいですし。」
莉子「だからあんたは何もしなくても大丈夫と・・・?」
まるで「従業員に店を押し付けて何をしているんだ」と言わんばかりの莉子、そのまさかの性格に少したじろいでしまう結愛。ただ今すべきなのは好美をフォローする事だ。
結愛「母ちゃん・・・、やめてやってくれ。こいつ自身もネフェテルサ王国の王城で夜の見回りの仕事をしているし、当然店にも出ている上にコンビニのオーナーも兼任してんだ。」
好美「結愛・・・。」
流石にキレたのか小刻みに震える好美、その姿に恐怖を覚えた結愛。
結愛「な・・・、何だってんだよ・・・。」
好美「ビール無くなった!!お代わり無いの?!」
そっちかい!!




