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どうして莉子は遠い異世界にいたのが自分の娘である結愛だと分かる事が出来たのだろうか
-286 「結愛」と「海斗」-
母の挨拶を聞いて上を向いて笑いながら涙を流していた結愛には気になっている事があった、と言うより不自然に思っている事があった。
結愛「母ちゃん、急に頼んだってのにさっきはありがとうな。」
莉子「何を言ってんだい、母ちゃんだって一応は「貝塚」なんだから当然の事じゃないか。」
大企業の社長という事など全くもって関係無いという雰囲気、ただそこにいたのは仲睦まじいだけの母と娘。
結愛「なぁ母ちゃん、1つ聞いて良いかな。」
今更切り出すのかよ、冒頭で聞く空気だっただろうが。
結愛「うっせぇ、あんたは黙ってろ。」
莉子「結愛、今のは何だい?」
結愛「気にしなくても良いよ、ちょこちょこ首ツッコんで来る「だけ」の存在だから。」
おい!!「だけ」とは何だ「だけ」とは!!俺次第でお前の人生なんて・・・!!
結愛「今は良いだろうがよ、空気読めって!!親子水入らずの会話を邪魔すんじゃねぇ!!」
はいはい分かりました、はよ気になっている事を聞けや。
結愛「それは良いとして母ちゃん、さっき聞こうとしていた事なんだけどさ。」
莉子「改めてどうしたってんだい、不自然な子だね。」
そうだぞ、親子同士なのによそよそしいじゃんかよ。
結愛「あのな、まともに母ちゃんと話すこと自体が初めてなんだから仕方ないだろうがよ。」
莉子「そうだよ、話が進まないから早くしとくれ。」
あらお母さんまで、大変申し訳ございません。
莉子「それで、どうしたんだい?」
結愛「母ちゃんはどうしてすぐに俺の事を自分の娘だって分かってくれたのかなって。」
莉子「そんな事かい、1つしか無いじゃないか。」
母は簡単そうに答えているが大手一流財閥の社長である娘は全く見当がついていなかった様だ、一先ず莉子はさらりと答えない事にした。
莉子「そうだねぇ・・・、義弘には1つだけ出来なかった事があったんだよ。」
罪を犯したのは間違いでは無かったが、巨大財閥と学園の両方を経営していた死刑囚に出来なかった事などあったのだろうか。
結愛「奴に・・・、出来なかった事?」
莉子「そうさ、あの性格が故に出来なかった事があったんだ。」
結愛「奴の性格の悪さは痛い程経験しているけど、金の為ならどんな事でもやりかねないアイツに出来なかった事だって?」
莉子「そう、それはね・・・。」
そう言うと母はゆっくりと娘に近付いて肩に手をやった、先程の抱擁と同様に温かな手。
莉子「「結愛」と「海斗」、あんた達の名前だよ。私があんた達に与えた唯一の贈り物さ。」
確かにあの極悪な性格をしていた義弘が2人に良い名前を付けることが出来ただなんて作者の俺にも到底思えなかった、母の言葉に結愛は改めて涙を流した。
結愛「母ちゃん・・・、俺この名前を大切にしてて良かったって初めて思ったよ。」
莉子「「沢山の人を大きな「愛」で「結」んで欲しい」で「結愛」、「「海」や北「斗」七星の様に広い心を持って欲しい」で「海斗」。義弘に気圧され何もしてやる事が出来なかった私が唯一贈る事が出来たプレゼントさ、忘れる訳が無いじゃないか。」
結愛は大粒の涙を流した、本人にとってもこんな事は初めてだった。きっと「最悪の高校時代」が終わり、光明と口づけを交わした時以上だったのかも知れない。
結愛「そうか、俺達の名前が母ちゃんと俺達をずっと繋いでくれていたんだな。どんなに金を積まれても譲れない物だし親にしか与える事が出来ない物だな、ありがとう・・・。」
莉子「結愛も大切にしてくれてありがとうね、お陰でまた会えたんだ。今日は呑もう。」
莉子の愛情が籠った名前、その愛情が導いた再会
※ここだけの話※
「結愛」と「海斗」は私佐行にもし子供が出来たら是非付けようと考えていた名前です。




