㉘
早速光は行動を開始した。
-㉘ 決心の先には-
光は自らの提案を受け入れてくれた旦那に感謝してある男性へと『念話』ではなく電話で連絡をした、『念話』だと下手すれば連れて来たい本人にバレてしまうと言うリスクがあるからだ。光は出来るだけ能力に頼らない様にした上で、本人に分からない様に行動したかったらしい。
光「あの・・・、あの子をある場所に連れて行きたいんだけど駄目ですか?」
男性(電話)「自分は構いませんが、何処にですか?」
光「ダンラルタ王国のバラライ牧場に。」
男性(電話)「良いですけど、またどうして?」
光「本人にとってこれからの将来の為に必要なんじゃないかと思って、旦那と話し合って決めた事なんです。」
男性(電話)「だったら・・・、どうぞ。」
男性の許可を得たので光は連れて行こうとする人物の場所を『探知』して『瞬間移動』した後、その人物の肩をぐっと掴んで再び『瞬間移動』した。
光「ナル、お待たせ。」
ナルリス「ありがとう、さて行こうか・・・。」
ナルリスは2人を連れて牛舎へと向かった。
ナルリス「さてと守君、今日君を呼び出したのは他でも無い。一緒に来てくれ。」
そう、ナルリスと光が呼び出したのは豚舎で働いていた宝田 守であった。
守「な・・・、何?!俺仕事中なんだけど。」
光「大丈夫よ、ケデールさんには事前に許可を貰ったから。」
ケデールは自分を贔屓にしている客の言う事に逆らわない事を知っていたので頼みやすい事を覚えていた、それに「本人にとってこれからの将来の為に必要」と言う言葉で念押ししたから尚更反対する訳が無い。
そうして、3人は先程子牛が生まれたばかりの牛舎の奥の一角へと向かった。そこでは先程の母牛が未だに苦しそうにしていた、実は牧場の者達も先程気付いた事だったのだが母牛が妊娠していたのは1頭だけではなかったのだ。
ナルリス「良いか、これから君は貴重な場面を目の当たりにする。きっと将来、この事を思い出して同棲している好美ちゃんに感謝する事になるだろう。人の生き血を吸って生きる吸血鬼の血を引いた俺が言うのも皮肉なことかもしれないがな。」
それから暫くの間、母牛が鳥獣人族達に囲まれて苦しんでいた。マムイやレーウェンも熱い視線を向けていた。
マムイ「貴女には私達がいる、大丈夫だからね・・・。」
レーウェン「お前だけが苦しんでいる訳じゃ無い、安心してくれよ。」
優しい言葉をかけながら母牛の体をさする夫婦。
ナルリス「守君、よく聞いてくれ。もしかしたらだが、これから君は俺と光みたいに好美ちゃんと結婚して子供を授かる事になるだろう。ただ俺達は男だ、光や好美ちゃんみたいに陣痛などを直接経験する訳ではない。でも今のうちにこういった場面を経験しておけば少しは理解して感謝できる様になるかもしれない、だからこの場面をよく見ておくんだ。」
今思えば真帆も別世界で子供が出来た時そうだったのかもしれない、目の前の母牛みたいに長時間の間痛みに耐えて子供を産んだのかもしれない。そう言った意味では「結婚して子供を作る」ということはそれなりに覚悟が必要な事だと息をのんだ。そして・・・。
守「う・・・、生まれた・・・。」
光「私がガルナスを産んだ時もそうだったけど、やはり陣痛に耐えきって子供が生まれた時って感動するもんよ。激しい痛みに耐えてそれまでずっと会えなかった自分達の子供にやっと会えたんだから嬉しさは言葉に表せない位よね、きっと将来、好美ちゃんもこうなる。もしもあんたが好美ちゃんと結婚するならこの事を理解した上で行動して欲しいの。」
守「そうか・・・。」
「結婚して家族を持つ」という事は女性にとってそれなりに覚悟がいるものだ、子供を産むだけではなく産んでから育てるという事に関して自分の人生全てを賭けるという事だ。
守「でも俺はやっぱり好美が好きだ・・・、一生かけて守るって決めたんだ・・・。」
光「あんたに覚悟があるのは聞いたけど、これ聞いてみ。」
好美(念話)「守ぅ~、早く帰って来て~、ビール片手に待ってるから~。」
良い話をしたはずなのに全てを無にする好美。




