282
やっと祝宴の日
-282 再会の宴-
好美達の『念話』から数日後の夜、貝塚財閥本社にある小さめの会議室にて事件解決の祝宴が行われた。貝塚財閥には夜勤で働く者達もいるので「嫌味にならない様に」という社長の気遣いで、比較的迷惑のかからなさそうな場所を選んだとの事だ。
結愛「事件解決、お疲れ様でした!!ダンラルタ王国軍や警察の方々、ご協力ありがとうございました!!本日の宴はお礼も兼ねていますので存分にお楽しみください!!」
ビアジョッキ片手にテンションがハイになっていた結愛は皆の前で注がれていたビールを一気に煽った、その姿からはどれ程この1杯を心待ちにしていたかが伺える。
スタンド形式となっている今回のパーティーで自分用に充てられたテーブルへと戻ってきた結愛の下に同級生が2名近づいて来た、1人は貝塚財閥で働く仲間だ。
美麗「結愛、楽しそうだね。」
結愛「そりゃそうさ、こんなに美味い酒なんて久々なんだよ。ほら、美麗も遠慮せずに吞めって。」
美麗「もう・・・、誰にだって自分のペースって物があるんだからね。」
そう言いながらも注がれたビールを瞬時に消し去ってしまう、やはりそこは実家が居酒屋だからなのだろうか。
結愛「それにしてもよ、実は好美の店のナイトマネージャーに美麗を推そうかと思ってたんだぜ。やっぱり美麗と言えば中華だろ?」
結愛は改めて自分の指示で美麗に制服として着させているチャイナ服を眺めた、やはり未だに元の世界でのイメージが強く根付いている様だ。
美麗「馬鹿言ってんじゃ無いの、人事異動は雰囲気とかで決めて良い物じゃないでしょ?それにやっと貝塚運送の仕事が軌道に乗って来たんだから勘弁してよ。」
結愛「冗談だよ、悪かったって。」
続いて結愛は美麗が隣に連れている人物に声をかける事に。
結愛「かんちゃん、来てくれて嬉しいぜ。今日は楽しんで行ってくれ。」
秀斗「言われなくてもそのつもりだ、親戚同士だってのに今まであんまり会う事すら許されていなかったからな。今日はその分楽しませて貰うよ。」
親戚同士で談笑する社長の耳に聞き覚えのある女性の声が。
女性「お楽しみの様だね、やはり私の弟が皆に相当な迷惑をかけたみたいだから謝らなきゃいけないかも知れないね。」
結愛「おばちゃん!!来てくれたんだ!!」
そう、結愛達のもとにやって来たのはダンラルタ王国で魔獣保護養育施設を経営する叔母の美玖だった。ただ以前と違って雰囲気(と言うより呼び方)が変わっていたので秀斗には違和感があった様だ。
秀斗「結愛、「おばちゃん」なんて呼んで良いのかよ。」
美玖「良いんだよ、この前までは裏で「クソババァ」って呼んでいたんだから。」
秀斗「結愛らしいや、そう言えば隣にいる人ってまさか・・・。」
美玖「そうさ、今日はこの人を結愛ちゃんに紹介しようと思ってね。結愛ちゃん、この人が今度からうちの施設のナイトマネージャーに就任する・・・。」
美玖が隣の女性を紹介しようとすると、その女性は突然結愛に抱き着いて泣き出した。
女性「今まで辛い想いをさせたね、頑張ったね。ごめんね・・・、結愛・・・。」
結愛「まさか・・・、そんな訳・・・、ねぇじゃんか。待てよ、この人と俺は互いの顔を知らないはずなんだぜ?」
ただその女性の抱擁には何処か身に覚えがあった、遥か昔に感じた事のある様な気がする温もり。それを裏付けたのはすぐ傍にいた従兄弟だった。
秀斗「いや結愛、その人が莉子さん、お前の母親だよ。」
どうやら義弘に家を追い出されてから身寄りのなかった莉子は洋子の家で共に一時暮らしていた様だ、幼少の頃に秀斗はよく遊んでもらったりしていたから覚えているらしい。
結愛「本当・・・、なのか・・・?俺の・・・、母ちゃん・・・?」
莉子「そうだよ、ずっと会いに行けなくてごめんね。遠くからあんた達の楽しそうな様子を見ていると出て行けなくてね、急に「母ちゃんだ」って言われても困るだけだろ?」
どんな時でも親子の再会は泣けるね




