272
嵐のように去る娘・ガルナス
-272 平和な朝?いや、平和では無い朝?-
当初の来訪目的を忘れかけていたデルアは義姉のお陰でやっと思い出しかけたみたいだがバス停へ向けて走り去るガルナスを見て呆然と立ちすくしていた際にまた忘れそうになっていた、つい先程まで大量のお握りとバランス栄養食を食べていたのにも関わらず物凄い勢いで遠くへと消えてしまったので消化不良でお腹を壊さないかと心配してしまった様だ。
デルア「お義姉さん・・・、これいつもですか?」
光「お恥ずかしながら、もう少しだけ早起きしてくれたらマシなんだけどね。もしかしてだけど、私のより吸血鬼の遺伝子が強いのかな。」
デルア「いや、そんな事無いと思いますよ。実際俺も仕事の日はいつも早起きですけど別に平気ですので、それに俺達の先祖が夜行性だったのは500年以上前の事ですから。」
光「じゃあ前日の晩、遅くまで友達と電話している事が原因かしらね。」
デルア「間違いなくそれだと思います、それでなんですけど・・・。」
やっと当初の目的へと向かおうとし始めたデルア、ここまで何話分掛かったよ・・・。
光「それに関しても(多分)うちの娘の責任です、後でお茶でも飲んでって下さい。」
あらま、これはご丁寧にどうも。お気遣い頂きありがとうございます。
デルア「それでなんですけどお義姉さん、良かったらいつも野菜を作っておられる畑を見せて頂けませんか?」
光「別に私は構わないけどうちのはただの家庭菜園だよ?大した事はしてないよ?」
デルア「何を仰いますやら、兄がこの場所に拘る位に惚れ惚れしている野菜がどうやって出来ているのかを見せて頂けたらと思いましてね。」
光「そうなの、じゃあナルには用事は無しって事?」
デルア「いや・・・、全くもって無いと言えば嘘になるんですけど宜しければ収穫のお手伝いもさせて頂けませんか?」
光「それは助かるけど、折角の休みなのに良いの?」
デルア「勿論です、この為に有休を取った様な物ですから。」
光「あら嬉しい、じゃあお言葉に甘えようかな。ちょっと着替えて来るから待っててね。」
そう言うと光は少し微笑みながら一旦家の中へと入って行った、暫くしてジャージ姿となった義姉は収穫用の籠と鎌を持って現れた。ただ本人が気づかない位静かに後ろから近付く怪しい影が・・・(大抵この時出て来るのは「あの人」なんだが)。
デルア「あの・・・、おはようございます、渚さん。」
やっぱりか・・・。
光「えっ?!お母さん!!いつの間に後ろにいたのよ!!」
渚「ごめんって、一本漬けと冷やし中華の具にする胡瓜を収穫するって聞いたから便乗しようかなと思ってね。あらデル君、おはよう。こんな所で珍しいじゃないか。」
改めて当初の目的を話したデルア、その目的に渚も賛成した様だ。
渚「あんた良い所に目を付けたね、この土地は天候と日当たりは良かったんだが実は土壌が悪くてね。光が一から作り直したんだ、それに基本無農薬で管理機器の電力として使用する電気の発電方法まで拘っているんだよ。凄い娘さね、私には到底真似出来ないよ。」
デルア「ハハハ・・・、(小声)でしょうね。」
渚「デル君、聞こえてるよ?」
毎日の様に屋台での営業を終えた時の渚と会っている時の事を思い出したデルアは半分冗談、そして半分本音で返事をした(勿論小声の部分)。
光「朝から賑やかで良いじゃない、じゃあ行こうか。」
3人は明るい笑い声を溢れさせながら光拘りの家庭菜園へと向かった。
そんな中、好美の所有するビルの真下にあるバス停留所横に設置された「コノミーマート」出張所ではダッシュで到着したばかりのガルナスが息を切らしながら最後に残っていたお握りを購入していた(いや、まだ食うのかよ)。そして窓越しにその光景を見かけた好美の食の勢いが未だに収まらない「暴徒の鱗 ビル下店」ではイャンダが何となく違和感を覚えていた。
イャンダ「好美ちゃん、気の所為だったら良いんだけどさっきから食べるペース上がってない?本当に1人で食べてるの?」
好美「いや、私1人だけど・・・。」
少し離れた調理場で2人の会話を聞いていた女性は違和感では無く嫌な予感がしていた。
まさか世に聞く・・・?




