㉖
隣国と言っても車で2時間、やはり世界が狭すぎる・・・。
-㉖ 気の強い女将-
ネフェテルサ王国のパン屋の前を出発してから2時間後、2人の乗った軽トラはダンラルタ王国の山中を走っていた。
ナルリス「すまんなウェイン、俺から言い出した事なのに車出して貰って。」
ウェイン「良いんだ、ドライブは数少ない趣味の1つだからね。」
ウェインの運転が上手かったのか、ナルリスは眠ってしまっていた。暫く走っていると、そこには山の中で随一と言って良いほど開放された草原が広がっていた。よく見れば乳牛が数頭草を食んでいる、どうやらここが目的地らしい。そこから数百メートル先に受付らしき小屋があり、ウェインはその前に車を止めた。
ウェイン「先に中に入っていてくれ。」
促されるままにナルリスがドアを開けると、中では瓶に入った牛乳や自家製のアイスクリームが売られていた。別の一角には駄菓子もあり、獣人族の子供達が小遣いを握りしめて買い物を楽しんでいた。しかし、従業員らしき人影は何処にも見当たらない。ナルリスが奥にある台にふと目をやると、そこにはレジとベルが置かれていて「御用の方はベルを鳴らして下さい」と書かれたメモが添えられていた。
子供「おじさん、ガム頂戴!!」
どうやら店員と間違えたらしく、無邪気にナルリスに声をかける子供。
ナルリス「ごめんね、おじさんここの人じゃないんだ。ベルを鳴らして呼んでみるからちょっと待っててね。」
ナルリスがベルを鳴らすと、けたたましい音が響き渡ったのでナルリスは思わず耳を塞ぎ声を漏らしてしまった。
ナルリス「うっ・・・。」
それから数秒後、笑いながらウェインが入って来た。
ウェイン「お前だな、ベル鳴らしたの。
ナルリス「何で分かったんだよ。」
ウェイン「そのベル、音がバカでかい事で有名なんだよ。それ位でないと中に聞こえないんだってさ。」
それから暫くすると、牧場の方から従業員らしきバルタンの女性が飛んで来た。
女性「ごめんなさいね、牛が一頭お産を迎えちゃったのよ。」
子供「おばちゃん、遅いよ。」
女性「こら、「お姉さん」だろ。言う事を聞かない子にはお菓子を売らないよ。」
子供「お姉さん、ごめんなさい・・・。」
女性「分かりゃ良いんだ、ほら、ガム1個30円ね。食べたらちゃんと歯磨きするんだよ。」
手を振って子供達を見送った女性はナルリスの方に目をやった。
女性「あんたも買い物かい?」
ナルリス「ああ・・・、すみません。私ナルリス・ダルランと申します。昨日友人から連絡があったと思うのですが。」
女性「ウェインさんから聞いているよ、私はここの女将のマムイってんだ。よろしくね。」
2人が自己紹介を終えた頃、こそこそアイスを食べていたウェインがやって来た。
ウェイン「おばちゃん、お産見に行かなくて良いのかい?」
マムイ「「お姉さん」だろ、それと王族の1人が無銭飲食とは感心しないね。」
ウェイン「ちゃんと払うよ、ほら。」
ウェインはポケットから小銭を出した、適当に出した様に見えたが金額は丁度だった。
ナルリス「あのお姉さん、お産の方は大丈夫ですか?」
マムイ「ふふふ、マムイで良いよ。そうだ、良かったら見ていくかい?」
ナルリス「是非、お願いします。」
乳搾り以上に貴重な経験が出来そうだと胸を躍らせるナルリスとウェイン、そうして2人は牛舎へと案内された。奥の一角で数人のバルタンやレイブンが集まっていた。
マムイ「父ちゃん、どうだい?生まれたかい?」
なかなか出来ない経験にナルリスは・・・。