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ナルリスは鼻歌交じりで店内へと向かった。
-㉕ 食材との出逢い-
折角隣国に住む友人の店に来たので、新メニューを考えるヒントにすべくナルリスは一般客が買い回る店内をゆっくりと歩き始めた。
ナルリス「乾物とか缶詰が充実しているな、あっちには生ハムが足1本単位で置いてあるぞ。削って量り売りでもしているのかな、これは便利だ。」
その中でもナルリスが一番注目していたのはチーズだった、魔獣や獣人族が多く住むダンラルタ王国から特別に仕入れた貴重な品々が揃っているのを見て羨ましく思っていたナルリスのすぐ傍を丁度入荷したばかりの商品を補充しに来たドゥーンが通りかかった。
ドゥーン「どうだ、凄いだろ。俺が直接交渉に行ったんだぜ。」
ナルリス「ダンラルタに直接行ったのか?」
ドゥーン「ああ・・・、山が多くて大変だったけどそれなりに楽しかったよ。」
ナルリスはショーケース内で一際目立っている大きなチーズを手にしてラベルをじっくりと読み始めた。
ナルリス「何々・・・、「鳥獣人族が自ら育てた牛の搾りたての乳を使っています」か・・・。」
ドゥーン「そうだよ、本人達が経営する山ん中の牧場に行って一緒に開発したんだ。乳搾り体験もさせてくれて嬉しかったな、お前にもさせてやりたかったよ。」
ナルリス「良い思い出なんだな、何か羨ましいぜ。」
ナルリスはラベルの最下部を見た、「ダンラルタ王国 バラライ牧場」とあった。
ナルリス「ここに行ったのか?」
ドゥーン「うん、バルタンやレイブンの方々を中心に放牧でゆったりと牛を育てていたんだ。ストレスが無い牛から絞った牛乳は濃厚で美味かったよ。」
少し興味が湧いて来たナルリスは光に『念話』を飛ばした。
ナルリス(念話)「光、今ちょっと大丈夫か?」
光(念話)「大丈夫だけど、何かあった?」
ナルリス(念話)「確か光が働いているパン屋さんってバルタンの人がいたよな?」
光(念話)「パン焼きのウェインの事?」
ナルリス(念話)「その人に聞きたい事が有るんだけど・・・。」
光(念話)「別にいいよ、ちょっと待ってね。」
パン屋の仕事が少落ち着いて来た光は厨房へと向かい、ウェインに声をかけた。その様子からはもうすっかり店にも馴染み、ベテランの貫禄も見え始めていた様だ。
光「ウェイン、今ちょっと良い?」
ウェイン「今丁度生地を発行させ始めたから構わないよ、どうかした?」
光「うちの主人と話して欲しいのよ、聞きたい事が有るんだって。」
ウェイン「ああ、ナルリスね。電話を替わればいい?」
光「うん、それで大丈夫。」
光は携帯を取り出してナルリスに電話を掛けた、『念話』を『付与』すればいいと思われるが光個人には能力に頼り過ぎるのもどうかという気持ちがあったのだ。
ナルリス「助かるよ、ありがとう。」
光(電話)「じゃあ、替わるね。」
ウェイン(電話)「おう、ナルか。珍しいな。」
因みに2人が話したのは魔学校の卒業式以来だ。
ナルリス「いきなり悪いね、ちょっと聞きたい事が有るんだ。ダンラルタにある「バラライ牧場」って分かるか?」
ウェイン(電話)「そこなら俺の友人がやってる牧場だよ、うちのパンもそこの牛乳使ってんだぜ。そこがどうかしたか?」
ナルリス「今友人の店にいるんだが、そこで作ったっていう美味そうなチーズを見つけてね。是非牧場を見に行きたいなと思っているんだ。」
ウェイン(電話)「じゃあ、俺明日休みだから一緒に行くか?俺から友人に電話しとくよ。」
ナルリス「何もかもすまないね、じゃあお言葉に甘えようかな。」
翌日、2人はウェインの運転する軽トラで隣のダンラルタ王国へと向かった、こちらも車で2時間程度の距離だ。
ナルリス「お前・・・、一応王族なのに軽トラなんて乗るんだな。しかもMTか。」
ウェイン「これが一番良いんだよ、安いし四駆でパワーがあるからさ。」
ナルリスは楽しみで仕方がなかった。