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好美が呑んだワインはどれだけ大切な物だったのか。
-㉔ 大切な酒と信頼-
好美が一人で呑み干してしまったワインは、3本全て隣のバルファイ王国にある酒の卸業者に無理を言って仕入れた物だった。
後に卸業者の代表者は友人にこう語っていたそうだ。
代表者「ナル君は良い友人だし、いつも贔屓にしてくれているからあれだけお願いされると卸さざるを得なくなっちゃってね。」
そう、ナルリスはこのワインを求める為に時間を作っては毎日の様に隣国(と言っても車で3時間程度の所)へと頭を下げに行っていたのだ。
店主はまさかそのワインをあっさりと呑まれてしまうと思わなかったので頭を抱えながら携帯を手にし、ため息交じりで電話を掛けた。
代表者(電話)「お電話、有難うございます。バルフ酒類卸です」
ナルリス「ドゥーンか、丁度良かった。」
ドゥーン(電話)「何だナルリスか、例のワインが高すぎるから売れなくて困っているんじゃないかって思ってたんだよ。」
ナルリス「逆だよ、女の子が1人で呑み干しちゃったんだ!!」
ドゥーン(電話)「でもお前3本買っていっただろ、まだ残っているんじゃないのか?」
ナルリス「残ってたら慌てて電話なんかしないさ、1人で3本全部呑んじゃったからこうなっちゃてね。まだ・・・、そっちに在庫はあるか?出来れば各々3本ずつ欲しいんだが。」
勿論、次好美が来た時の対策の為だ。泥酔して本人が支払わなかった時用の「守」という保険もあるから是非入手して備えておきたい。
ドゥーン(電話)「3本ずつって・・・、お前あれ1本の原価どれ位か知っているのか?」
ナルリス「18万とは聞いてるけど・・・。」
ドゥーン(電話)「言ってしまうとあれだが、原価もそんなに安くないんだぞ。確か伝票がこの辺りに・・・、あった。」
ドゥーンは電話を片手に仕入れ伝票を捲った。
ドゥーン(電話)「これだこれだ、1本16万2000円だよ。うちでもなかなか手を出さない代物を合わせて9本もか?悪い冗談はよしてくれ!!」
ナルリス「これが冗談の口調に聞こえるのか?いくら俺が悪戯好きだからってこんな時に冗談をかます余裕は無いぜ。それで?在庫は?」
ドゥーン(電話)「そうだな、ちょっと見て来るよ。」
ドゥーンは電話を保留にして高級な酒を入れてある戸棚へと向かった、扱っている物の値段が高額な為に戸棚は南京錠で閉じられていた。因みに南京錠の鍵はドゥーン含めて数人の者しか扱えない事になっており、普段は金庫の中で管理されていた。
ドゥーン(電話)「お待たせ、在庫はあるけど9本丁度だな。」
ナルリス「偉い時間が掛かってたじゃないか、まさか煙草吸ってた訳じゃ無いだろうな。」
ドゥーン(電話)「馬鹿か、うちは日本酒も扱っているのに煙草なんか吸ってたら杜氏さんに怒られるわ。」
異世界だというのに日本の文化が溢れている事を実感させられる今日この頃。
ナルリス「じゃあ何してたんだよ。」
ドゥーン(電話)「企業秘密って奴さ、特にこのワインみたいに高級な物を扱う時のな。」
ナルリス「ふーん・・・、だったら仕方ないよな。すぐに取り敢えず金持って行くから用意しといてくれないか?」
ドゥーン(電話)「まぁ、うちは儲かるから構わないけど、本当に良いんだな。」
友人の言葉の語尾を待たずに『瞬間移動』で卸業者へと到着した店主。
ドゥーン「わっ!!お前、まだ箱も用意して無いのに早すぎるわ。」
ナルリス「箱は良いよ、どうせすぐにワインセラーに入れるのに。」
ドゥーン「そういう訳にも行かないよ、ワイン農家から是非とも箱と一緒に売ってくれって通達が来てるんだ。代表者が守らない訳には行かないじゃないか。」
ナルリス「ふーん・・・、あれ?お前最近小売りも始めたのか?」
ナルリスが辺りを見廻すと一般の客が中で買い物していたのが見えた、ナルリスの記憶が正しければこの業者は飲食店向けを専門での卸を行っていたはずなのだが。
ドゥーン「最近だよ、やっぱりうちも可能な限り儲けを増やさないとな・・・、と思って始めたんだ。卸業者がやってるお店だから安いって結構好評でさ。」
ナルリス「やっぱり売ってるのは酒だけなのか?」
ドゥーン「いや、一応つまみになる様な食品も扱ってるぜ。良かったら見て行けよ。」
ナルリスは新メニューのヒントになればとショッピングを始めた。




