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「抜け駆け・つまみ食い」の真相とは・・・。
-㉓ 数の多いため息-
先程までナルリスの店で散々ただ酒を呑み散らかした好美が、どうして能力を使ってまで「抜け駆け」をしだしたのかというと、数分前の事だった。
陸上部の練習を終えて学校から帰ってきたナルリスの娘であるハーフ・ヴァンパイアのガルナス・ダルランが、空腹を感じていてそこに丁度出来たばかりの「試作品」があったもんだから思わず食べてしまったのである。
ガルナス「寝ちゃってるし、良いよね。」
そう一言呟いたオーナーシェフの一人娘が好美用に出されていたおつまみを全て食べ尽くしてしまった。よく考えればガルナスと言えば「大食い」だ、ナルリスは毎日頭を抱えてばかりであった。
そして今に至る、目の前のつまみが全て無くなってしまった好美は光達が美味そうな物を作っている事を『察知』し、『転送』を使ってつまみ食いを行っていた。
そんな中、ため息をつきながら光が一言。
光「あんたの恋人は昔から変わらないね。」
「松龍」でバイトしていた頃の好美が、その頃から大食いだった事を知っていた光は少し懐かしさをも感じていた。
光「仕方ない、また作るか。」
結局「二の舞三の舞」になる気もしたが、光は再び肴を作り始めようとした。しかし、思い出した事が1つ。
守「光姉ちゃん、もう生ハム無いよ。」
そう、作るのが段々楽しくなってきていた光は、守が持っていた生ハムが1パックだけだった事を忘れてしまっていた。
光「何それ、シケるじゃん。」
守は何もしていなかったが、一人不貞腐れてしまう光。そんな中、出来立ての料理を食べた犯人から『念話』が飛んで来た。
好美(念話)「守、もう無いの?ワインにぴったりだから助かってたのに。」
好美が店に行った本来の目的はロール白菜だったはずだが、どうやら完全に忘れてしまった様だ。ただ、問題はそこでは無かった。
ナルリス(念話)「守君、すまないが好美ちゃんが呑んだワイン代を払ってくれないか?」
流石にやっとの思いで仕入れた高級なワインを全てタダで呑まれてしまうと店の損失がとんでもない額になると思った店主からの必死さが何よりも伝わる言葉だった。
守(念話)「勿論です、おいくらですか?」
ナルリス(念話)「ちょっと待ってね・・・、はぁ・・・。」
ナルリスは『念話』でも届く位の大きなため息をした。
守(念話)「そんなに凄い金額なんですか?」
ナルリス(念話)「「お一人様」にしてはね・・・、多分。」
長い長いレシートから合計金額の欄を必死に探すナルリス。
ナルリス(念話)「あった・・・、はぁ・・・、57万9420円だな。」
ナルリスから聞いた金額に守も頭を抱えだした。
守(念話)「どうすればそれだけの呑み食いが出来るんだよ・・・。」
答えは簡単だった、好美が呑んだワインは赤、白、そしてロゼの各種が1本18万円する代物だったのだ。
ナルリス(念話)「まるで水の様に呑んでたよ、また仕入れないといけないじゃんか・・・。」
光(念話)「何か前にもあった光景よね。」
守(念話)「金銭感覚がおかしくなりそうな話だな・・・。」
どうやら好美が呑んだワインは、各々1本しか仕入れていなかった様だ。
とことんついていないナルリス。