㉒
守はビールを出すのに少しだけ抵抗していた。
-㉒ 何よりのボーナスとお礼の品-
守が冷蔵庫から取り出したビールは、自分へのご褒美の為にこの世界に来て初めてのボーナスで買った物だった。好美の家に引っ越すまでは肉屋に住み込みで働いていた為、光熱費等の世話になっていたからか、給料は少ないと思っていたのだが、想像以上に肉屋の儲けは良いらしく、守も豚舎で働く分良い値段で貰っていた。確かに豚舎での仕事は朝早くからな上に大変な力仕事だったが自分を拾ってくれたケデールへの恩を返す為だと思い必死に働いていた。その事が影響したのか、初めての賞与はとても嬉しい金額だった様だ。
守「まぁ、2本あるんだし、1本位あげるか。」
しかし、守には誤算があった。好美には見つからない様な場所(と言っても惣菜の入ったタッパーの奥)に隠してあったはずなのに光には見つかっていたのだ。
光「あんたもケチね、何で1本しか持って来てくれないのよ。」
守「俺だってこのビール呑みたくて買ったんだよ、1本位残したって良いじゃないか。」
しかし、光は引き下がらなかった。ただ、鬼では無い。
光「じゃあグラスを1個追加して一緒に呑もうよ。」
守はこの言葉が嬉しかった、元の世界にいた時に憧れの的だった女性の1人に誘われるとは思わなかったのだ。
守「う・・・、うん・・・。」
僅かながらだが、照れを隠しつつグラスとビールを持って行く守。
光「こうしていると思い出すな、確かあんたと好美ちゃんを交えて3人でちょこちょこ呑んでたっけ。」
3人は守、及び好美が成人してからよく「松龍」で呑んでいた事が有った。ごく偶にだが、店の手伝いを終えた美麗も一緒になってよく顔を赤くしていたのを覚えていた。
光「ねぇ、好美ちゃんの所行こうか。」
光はまだ口を付けてないビールのグラスを揺らしながら提案した。
守「良いけど、これ呑んでからでも良いんじゃないの?」
元の世界ではなかなか取れなかった「2人で呑む時間」を終わらせたくなかった守、それ位に光は守にとって特別な存在だったのだ。
光「そうね、でももうおつまみがないよ。」
テーブルを見てみると残りはポテチが10枚程度しか無かった。
守「冷蔵庫見て来るよ。」
守はゆっくりと立ち上がり、冷蔵庫へと向かった。中にはこれも自分へのご褒美の為にと買った生ハムが1パック。しかし、守にとっては光との時間が何よりのボーナスだったのかも知れない。
守「光姉ちゃん、生ハムで良い?」
光「良いじゃん、チーズがあるからそれ巻いて食べようよ。」
光は『アイテムボックス』からモッツァレラチーズを取り出して切り始めた。数分後、光の前の皿の上には生ハムに包まれたモッツァレラチーズが何個も並んでいた。
光「これにオリーブオイルとジェノベーゼソースをかけて・・・っと、完成!!」
守は思わず笑みがこぼれた、即席と言っても見た目は本格的なイタリア料理がそこにあった。やはり何処に行っても女性のセンスには驚かされる。
守「これ、食って良いの?」
光「良いに決まってんじゃない、タダで呑ませて貰っているからお礼させてよ。」
ただ、守は皿に目をやる度に食べてないはずの料理が減っている様な気がした。
好美(念話)「何これ!!美味しいじゃん!!」
守(念話)「いつの間に・・・、こら好美!!『察知』と『転送』使って抜け駆けすんな!!」
相も変わらず、ちゃっかりしている好美。