215
確認は怠ったらダメなんだぞ
-215 所長の任を任されている理由-
やっとの思いで205歳の泣き虫を説得した強制収容所の係員は、収容所の出入口横にある係員室のチェアに座って煙草を燻らせる事にした。深く一息を突いた後、個人的に少し前から不安に思っていた事を思い出していた。
ヂラーク「本当に・・・、あんな人が所長でこの収容所はやっていけるのだろうか・・・。実際に脱獄事件が起こっているから3国の住民の方々からの信頼度合いはかなり下がっていると思うんだけど、正直誰がアイツを所長にしようって言い出したんだよ。俺は個人的に納得出来ないんだけどな。」
ヂラークは気が緩んでいた時の独り言として今の発言をしたつもりだったのだが迂闊だった1つ、そう、先程と同様に無線機のスイッチを入れたままにしていたのだ。誰にも聞かれていなかったら良いがと願っていたが時既に遅し。
ハイラ(無線)「ヂラークさん、やっぱり私の事を信用出来ませんか?」
無線機の向こうで再び泣きかけている所長、これはソフトキャンディー1つでは済まされない事態になって来た気がする。
ヂラーク「では所長、私を納得させて頂けませんかね。」
本当はこんな発言をしたくは無かったが、今は何となく譲れない気持ちが無いと言えば嘘になる。
ハイラ(無線)「分かりました、ちょっと待って下さい。」
ヂラーク「へ?何をするおつもりで?」
ハイラ(無線)「貴方の私に対する信頼を取り戻して見せます。」
ハイラが無線機のスイッチを切るとヂラークはすぐ傍にある椅子に座って何事も無かったかのように再び煙草を燻らせながら外の風景を眺め始めた、いつもと変わらず海が一面に広がるゆったりとした景色を楽しんでいると海上に突然大きな黒い球状の物体が出現した。所々から稲妻の様な物がビリビりと鳴っているその物体はどんどん大きくなり始め、周囲の生物を傷つけながら飲み込み始めていた。何となくヤバい気がして来たのはヂラークでなくても分かったのだが、どうすれば良いのか分からなかったので一先ず無線を使って所長に連絡をする事にした。
ヂラーク「所長!!城門の前に正体不明の球体が出現したんですけど何とかして頂けませんか?!」
ハイラはすぐに無線に応答したが、未だにぐずっているのが誰から見ても分かった。
ハイラ(無線)「えぐっ・・・、えぐっ・・・。これで・・・、私の魔力の強さを・・・、証明して見せます・・・。建物もろとも・・・、消えて・・・、下さい・・・。」
そう、謎の球体を出現させたのはハイラ本人だった。すると横から無線を聞いてヂラークの身を案じた副所長が焦った様に横入りして来た、ムクルの様子から見てどうやらかなりの緊急事態になってしまったらしい。
ムクル(無線)「ヂラーク、お前は所長に何を言ったんだよ!!このままだと命が無くなっちまうぞ!!ちゃんと言っただろう、あんまり泣かせるなって!!」
ヂラーク「そう言われてもこうなるなんて誰も思わないじゃないですか!!」
ムクル(無線)「あのな、エルフの魔力を舐めんなって母ちゃんに言われなかったのかよ。それより早く逃げろ、死ぬぞ!!」
ヂラークは副所長に言われた通りにその場を急いで離れた、すると次の瞬間にハイラが出現させた球体がより一層周囲を飲み込みながら大きくなり始めた。
ムクル(無線)「ハイラさん、落ち着いて下さい!!ソフトキャンディー買ってあげますから・・・、ね・・・?」
ハイラ(無線)「嫌です、ヂラークさんに私の実力を証明して見せるんです。」
ムクル(無線)「十分ですって、十分証明出来てますから魔法を消して下さい!!15年前、同じ魔法で貴女が城門を壊した時にどれだけ怒られたか忘れたんですか!!」
ハイラ(無線)「そんなの良いです、また怒られても構わないです。と言うかもう遅いです、我慢できません、とりゃぁー!!」
城門周辺の土地を全て飲み込んで大きくなった正体不明の球体は爆発した、係員室に至っては跡形もない。副所長のお陰で寸前に逃げていたヂラークは何とか無事だったが周囲は悲惨な状況となっていた、ハッキリ言って転生者でも無ければ修復出来ない位だ。
ムクル(無線)「あーあ、やっちゃった。ヂラーク、お前が責任とれよな・・・。」
まずい事になったな・・・




