209
慣れない事はするものではない
-209 所長の本当の姿-
十数秒経過して結愛はやっとスマホの電話帳から本社にある社長室の電話番号を探し出した、普段は基本的に連絡用として『念話』を使用していたのでこれ位の苦労は想定の範囲内だったはずだが結愛にとってはこっちの世界に来てから何年もの間未経験だったので焦りの表情を隠せずにいた。というより番号を見つけた後の問題の事を考えていなかった様だが・・・。
結愛「やっとだ・・・、やっと社長室の番号を見つける事が出来たぜ・・・。よし、俺だって固定電話の使い方は分かるぜ・・・、ってこれボタンは何処にあるってんだよ!!」
そう、強制収容所の数か所に設置されていた固定電話は全て昔ながらのダイヤル式だったのだ。結愛が元の世界に住んでた時にはほぼ全ての家電や公衆電話がボタン式になっていたのでダイヤル式の電話に動揺してしまうのは当然の事だったのだろうか。きっと水洗便所やウォシュレットに慣れた現代っ子の目の前に昔ながらの汲み取り式の便所が現れた時も同じ反応になるのだろうなと思ってしまった。
結愛「えっと・・・、これって・・・、下の針の所に数字と同じ穴を合わせるんだったな。俺だって落ち着いてやれば出来るはずの女だ、よく考えてみろ、俺は大企業の貝塚財閥の社長だぞ、出来ない事等何もない。落ち着け・・・、ゆっくりやれば大丈夫だ・・・。」
するとなかなかダイヤルを回そうとしない結愛を見かねた所長がそっと手を貸そうとした、いつまでも電話の前で立っているだけで指を全く動かそうとしないので我慢の限界が来たのだろう。
ハイラ「あの・・・、社長さん・・・、大丈夫ですか?」
飽くまで下手に出て結愛が話しやすい様に工夫していた所長、可能な限り結愛に協力しようとしている事がよく表されていた。
結愛「すみません・・・、ガキ・・・、いやこ・・・、子供の頃はダイヤル式の電話を使っていたんですがね。」
ただこの発言はある意味仇となっていた、ビクター・ラルーから転生者全員に与えられた歳を取らないという便利な機能が故にこの世界の住民はすっかり有名人となっていた結愛に幼少時代自体があったのかどうかを疑ってしまっていた。
ハイラ「あの・・・、それって何百年前の話なんですかね・・・。」
結愛「所長さん、何を仰っているんですか。私は貴女と同じ20代の女子ですよ・・・。」
ただ結愛の見立ては間違っていたらしい、これはここが異世界だからが故によくある話だと思われるのだが今はそっとしておくのが1番なんだろう・・・。
ハイラ「あの・・・、私が貴女と同じ20代ってどういう意味ですか?」
結愛「いや、そのままの意味なんですけど・・・。」
ははは・・・、まさかな・・・。
ハイラ「結愛社長・・・、私205歳のエルフなんですけど・・・。」
そう言うとハイラは長い髪を掻き分け警察帽を取り外して両耳を結愛に見せた、確かに長い笹の様な形をした耳だった。
結愛「そうだったんですか、何かすみません・・・。」
ハイラ「いや別に今頃気にする様な事でも無いので良いんですけど・・・、何なら名刺見ますか?」
結愛は半信半疑だった、本当にハイラが205歳なのかではなくこの強制収容所の所長をしているのかだ。
結愛「えっと・・・、所長さんが良かったら・・・。でも先程名刺は見せて頂いたんですけど。」
ハイラ「一応名刺は2種類用意しているんですよ、超個人的な理由なんですけど。」
そう言うとハイラはもう1種類の名刺を差し出した、真ん中に書かれた名前は先程と違ってファミリーネームや生年月日まできっちりと書かれていた。
結愛「「ネルパオン強制収容所 所長 ハイラ・クランデル」さん・・・、クランデルですって?!まさか・・・!!」
ハイラ「そうなんです、わたしバルファイ王国にある貝塚学園魔学校のマイヤ・クランデルの孫娘でノーム(ドーラ)の姉なんです。ただ隠してた理由がちゃんとあるんです・・・。」
まず姉の存在すら知らなかったんだが・・・




