207
お願いですから平和に話を進ませて頂けませんかね・・・。
-207 社長として、そして友人として-
所長室にいた数人がレイトを泣かすまいと必死に宥めようとする中で大企業の社長には不審に思っていた事があった、確かに義弘の脱獄事件を受けたので貝塚警備の支社長を通して目の前のマイコニドを監視カメラの設置役としてこの強制収容所に派遣したのは自分自身だが常駐する様にとは頼んでいない。結愛は飽くまでビジネスとしての話なので「大人モード」で声を話しかける事にした、これは泣き虫(?)のレイトが話しやすくなるようにとの配慮も兼ねてだ。
結愛「レイトさん、恐れ入りますが1つお伺いしても宜しいでしょうか?」
レイト「私なんかに社長さんが聞く事なんてあるんですか?」
正直今の状況で聞く事が無かったら声をかけないと思うのだが今はそっとしておくのが1番だろう。
結愛「あの・・・、確か貴女にお願いしたのは監視カメラの設置だけだと思うのですがそれはとっくに終わったはずなのにどうしていらっしゃるんですか?」
レイト「えっと・・・、これは私が貝塚警備に就職してすぐの事なんですが支社長に監視カメラを設置してから数日後に必ず調整に行く様にと言われたんですよ。私はその時に聞いただけなんですが最近新しく出来た社則だそうです。」
結愛「そうなんですか・・・、ちょっと支社長に確認しても宜しいですかね?」
レイト「勿論です、その支社長本人に聞いたんですから。」
結愛「別にレイトさんを疑っている訳ではないので大丈夫ですからね、安心して頂けたら助かります。ただ本社の社長としてしっかりと把握しておく義務があると思うんです。」
優しい眼差しでレイトと話す結愛の姿を見て同級生と自分の間に出来た差を誰よりも感じていた守、何となくだが「悪ガキモード(というより素の状態)」に戻したくて仕方が無かった。
守「お前って意外と従業員思いだよな、義弘と違って。」
結愛「「意外と」って何なんだ「意外と」って、それに比べる対象がおかしいだろうがよ。あのくそ親父と一緒にすんな!!」
突然素に戻った結愛を見て驚きを隠せなかったレイト、これはまずい雰囲気では無いのかと思ってしまったがどうやらマイコニドの心中には別の理由があった様で・・・。
レイト「お・・・、お父さんの事を「くそ親父」なんて言っちゃ駄目ですぅ~!!」
最近貝塚警備(いや貝塚財閥)に入社したレイトは勿論義弘と結愛の過去を知る訳が無かった、その上幼少の頃から父親とかなり仲良しだったので結愛自身の「くそ親父」発言をどうしても許す事が出来なかったらしい。
結愛「あのレイトさん・・・、物凄く言いづらいのですが・・・。」
これ以上レイトの機嫌を損ねる訳にはいかないので再び言葉を選びながら話そうとする結愛、しかし結愛の心中にある「少しでも義弘の事を思い出したくない」という気持ちを与した守が友人として社長の言葉を遮った。
守「待て結愛、これ以上お前が辛い過去を思い出す必要なんてないんだぞ。レイトさんには俺から話す、その間に結愛は支社長さんと話して来い。」
当然と言って良いのか分からないが、この日守とも初対面のレイトは自分を雇ってくれた本社の社長に対する守の態度が気に食わなかったらしい。
レイト「待って下さい、この人何で社長さんに対して「お前」とか言ってるんですか?何か嫌なんですけど!!」
結愛「ごめんなさい、突然の事ばかりで動揺しちゃいますよね。今レイトさんが仰った事も兼ねてこの者から説明があると思いますので大丈夫ですよ、私は一旦席を外しますが安心してお話を聞いて下さればと思いますのでお願いしますね。」
結愛は支社長に電話をする為に所長室の隣にある給湯室へと向かった、友人が部屋から出た事を確認した守は結愛と自分の関係や過去を洗いざらい話し始めた。
元の世界の貝塚学園で2人が友人として出逢い、まさに暴徒と化していた義弘に対抗しながら共に学んだ事やこっちの世界に先に来ていた好美と自分を繋ぐ架け橋となってくれた事などだった。今となっては結愛の夫で貝塚財閥副社長である光明を含めて良い友人である、それが故の態度だった事を守が全て説明するとレイトは涙をぼろぼろと流し始めた。
守「えっと・・・、まずい事言っちゃいましたかね?」
レイト「違うんですぅ・・・、自分が許せないんです。社長達と守さんの間の事を全く知らなかったとは言え、先程の自分の発言は駄目だと思ったんです。」
守「大丈夫ですよレイトさん、自分もちゃんと説明出来てなかったんでお気になさらず。」
こりゃ大変だな・・・。