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「あれ」・・・、使って大丈夫なのか?
-195 環境と共に変わった事-
周囲からの圧に押されて深くため息をついた渚は致し方なく『アイテムボックス』から「あれ」、そう、本人が「赤鬼」と呼ばれる所以となった愛車・エボⅢを引っ張り出した。でもよく考えてみればどうしてダルラン家の地下駐車場で大切に保管されているはずのエボⅢがまた『アイテムボックス』に入っているのかが不思議で仕方が無かった、この際だから聞くけどどういう事なんだ?
渚「ああ・・・、実はね・・・。」
何だよ、言いづらい理由でもあんのかよ?まさか光達の家から追い出されたのか?
渚「そんな訳無いじゃ無いか、あたしゃあの子の母親だよ?」
例えそうだとしても家主はナルリスであるし渚自身の素行を考えると十分あり得る話である、しかし本人からちゃんと理由を聞いておかないとずっと疑ったままになってしまう。
渚「失礼だね、一時的に場所を空けておいて欲しいって言われただけなんだよ。ほら、そろそろ3国を跨いでのカフェラッテ・レースの時期だろう?」
ああ・・・、そう言えばそうか・・・。確か以前は光が3連単を当てて大儲けしてた様な気がするけどそれがどうしたってんだよ?
渚「それがね、光が働いているパン屋の連中がチームを組んで出場しようってうるさく言い出したもんだからスーさんに協力を仰いであの子の車をレース用に改造するのに地下駐車場を利用しているって訳さ。元から私が拘っていじった車なのに酷い話だと思わないかい、すっかり蚊帳の外だから寂しくて仕方が無いよ。」
誰もが「そっちかよ」と言いたい場面であったが世の中で言う「覆水盆に返らず」、一先ず話を戻す事にしようか。
渚「それで?私の愛車をどうするつもりなんだい?」
「どうする」って・・・、車は走らせてなんぼだぞ。当然、走って貰うんだよ。ただしボディに宣伝用のステッカーを貼ってだけどな、分かったら早くやれ。
渚「何でだい、「暴徒の鱗」のステッカーだって貼っていないのに嫌なこったね。」
その時だ、眩しく輝く日光に照らされて赤色が映えていたスポーツカーの持ち主以上に抵抗する様子の「声」がそこら辺にいた全員の脳内に直接流れ込んで来た、この声は女性の様だ・・・。
女性「あの・・・、前から言おうと思っていたんですが最近私の扱いが雑過ぎませんか?」
渚「だ・・・、誰だい!!不審者でもいるのかい?!」
女性の声を聞いた数人が辺りを見廻しても渚以外に女性は見当たらなかった、ただどう考えても渚があんな丁寧な言葉遣いをするとは思えないと全員がざわついていた。
渚「ちょっと、いくら何でも失礼じゃ無いのかい?」
デカルト「渚さん、そんな事より今は声の正体を知るのが先決でしょう。」
渚「そ・・・、そうだね。あの・・・、何処のどなたかは存じませんが宜しければお顔を見せて頂けませんかね?」
初めて話す相手だからか、今までに無い位に丁寧に話しかける「赤鬼」、しかしその必要はすぐに無くなった。
女性「いや渚さん、さっきから目の前にいるんですけど。と言うより貴女が目の前に出したんでしょ?『アイテムボックス』から出て来た時って意外と痛いんですよね・・・。」
渚「ま・・・、まさか・・・。実はちょっと前に守君から聞いた話に似てるけど、まさかこれが「デジャヴ」ってやつかい?」
渚さん、改めて言いますけどここは何でもありの異世界なんで十分あり得る話ですよ?
女性「そうですよ、それより私を宣伝に使うのならそれなりの相談をさせて頂いて互いが納得した上で無いと動きたくないんですけど。」
渚「あんた・・・、エボⅢだね?元の世界にいた頃はバカみたいに燃料を食ってたのにこっちに来てドケチになってないかい?」
自分の知らない所で愛車がある意味変わってしまった様なので少し困惑する渚。
エボⅢ「それで?私の時給はおいくらなんですかね?私安くないですよ?」
結構現金な奴だな・・・、おい・・・。