189
食材は手に入るんだろうか
-189 必要なのは人同士の繋がり-
ただただ呆然と立ち尽くすロラーシュを横目に、「バルフ酒類卸」にて一般客が利用する表側の小売り用の店舗とは打って変わった様に薄暗い倉庫の部分へと渚はゆっくりと進んで行った。
ロラーシュ「お姉さん・・・、ここ私達は入って良い場所なんですか?」
渚「大丈夫だって、私は以前からここで屋台の食材を仕入れているんだ。それに表向きの店舗はつい最近出来た場所で元々はこんな倉庫だけでの営業だったんだ。」
と言うよりこの世界では渚の屋台以外にもあらゆる外食産業の店を経営する会社達が必ずと言って良いほどこのお店との付き合いをすると言っても過言では無い、その為に先程赤鬼が言った「倉庫」には酒は勿論だがあらゆる食材が取り揃えられていた。
ロラーシュがきょろきょろと辺りを見廻す中、2人に向かって男性の声がした。
男性「「倉庫」とは何ですか、可能な限り多くの食材等を取り揃えるのに予算をつぎ込むために敢えて施設をこの様にしているんです。」
突然の声に驚きを隠せない2人は焦りながら声の方へと振り向いた、まだ焦りが残っていたのか2人の息は少し荒くなっていた。
渚「誰なんだい、全く気配を感じなかったよ。」
男性「すみません、ごく偶に癖が出ちゃうんです。狭い店の中で『瞬間移動』を使うなって友人にいつも怒られているんですが。」
渚「まぁ、私も人の事を言えた立場じゃないから構わないさね。歩くのが面倒な時ってつい『瞬間移動』に頼っちゃうんだよね。」
男性「あらま、気が合いますね。ネクロマンサーか何かで?」
渚「ただの転生者だよ、ネクロマンサーって何なのかを全く知らないって言ったら嘘になるけどね。」
「転生者」という言葉を聞いた男性は薄暗い中で渚の赤い髪と相も変わらず男勝りな姿を見た後、必死に何かを思い出そうとしていた。
男性「あの・・・、恐れ入りますがもしかしたら赤江 渚さんではないですか?」
渚「あらま、私も有名になったもんだねぇ。」
因みに普段渚には別の店員が対応しているので2人には全くもって面識が無かった、ただどうして男性は渚を知っていたんだろうか。
渚「ただどうして私の事を知っているんだい?生前から雑誌とかの取材なんて受けた覚えなんて無いんだけどね。」
確かに生前の渚は表向きではただのOLだったから思い当たる節など無い、それにこっちの世界でも八百屋の仕事を失った後にのんびりと屋台を経営していただけだから尚更だ。
男性「ヴァンパイアのナルリスに聞いたんですよ、ナルリス・ダルラン。私はリッチのドゥーンと申しましてアイツとは友人なんですよ。」
渚「そうかい、ナル君の友人だったのかい。だったら話が早いね、ちょっと頼まれてくれるかい。」
ドゥーン「勿論です、友人のご家族の方とあれば喜んでご協力させて頂きますよ。先程は失礼な事をしてしまいましたので是非お詫びをさせて下さい。」
優しく微笑む店主に渚が食材のリストを手渡すとドゥーンは頭を悩ませていた、理由はただ1つ・・・。
ドゥーン「こちらですか・・・、困ったな・・・。」
渚「何言ってんのさ、さっき見回った時はいっぱい在庫があったはずだけど?」
ドゥーン「それなんですがね・・・、つい先程ある方からお電話を頂きまして酒を中心に買い占められてしまったんですよ。」
渚「買い占めね・・・。」
デカルトやランバルが渚がここに来る事を予測して先に電話で注文をしていたのだろうか、出来ればそうであって欲しいと願うばかりの渚。ただ「酒を中心に」という言葉が少し引っかかるが・・・。
渚「誰が電話したってんだい?」
ドゥーン「あの・・・、「暴徒の鱗」の倉下好美さんという方なんですが・・・。」
渚「好美ちゃんだって?!あの子は今彼氏と旅行中だよ、どういう事なんだい・・・。」
慌てて好美に『念話』を飛ばす渚、ただ噂の好美は痺れを切らしたのかランバルからオススメされた近くの居酒屋へと向かって思いっきり吞んでいた・・・。
気楽な奴、旅行中だから当然の事か