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やはり料理人として1人ひとりの客をよく見ている店主
-179 兄-
ランバルと名乗った未だに開店日を決める事が出来ない飲食店の店主は恋人達を店の中に招き入れて2人に冷たい水を1杯差し出した、汗が滲み出ている様子から暑い日が続くバルファイ王国からやって来た事を察したが故の行動だと思われる。
ランバル「すみません、こんな物しか出せなくて。」
本人は「こんな物」と謙遜していたのだが全く使われていない綺麗なグラスに注がれていたとても冷たいその水はダンラルタ王国で最も高い山の天辺で店主が自ら汲んで来た拘りの湧水だそうだ、本人曰くこの水で作る料理や水割りにしたウイスキーは絶品らしい。
守「いえ、俺達も突然やって来たのに有難うございます。開店準備でお忙しかったのではないですか?」
未だに開店出来ない理由を知らない守はきっと店主が1人で行っているが故に準備が追いついていないからだと推測していた、ただやはりテーブルやチェアは揃っているのでいつでも開店できるような気がしてならない。ただランバルの返答は意外な物だった。
ランバル「いえ、全く忙しくはしていなかったんです。寧ろ暇で暇で仕方が無かったと言いますか。」
そこはやはり料理人らしく、拘りの食材がなかなか手に入らないので開店出来ないからなのだろうか。
好美「じゃあ・・・、お料理が作れないからとかですか?絶対料理に入れたい具材が見つからないとか。」
好美の推測を聞いて店主は首を横に振った、では一体どういった理由なのだろうか。
ランバル「そう言う訳でも無いんです、実際冷蔵庫には長期保存が可能な食材を多数揃えておりますのである程度の料理ならすぐにお出し出来るんです。」
好美「では何で開店出来ないんですか?料理を出せるなら開けちゃえば良いのに。」
好美の言葉には「店を開けてくれ」と言うより「何でも良いから食わせてくれ」という意味が含まれている様に思われた、きっと空腹がピークに達して我慢が出来なくなってしまったのだろう。
ランバル「私もそうしたいんです、しかしある理由がありまして・・・。」
守「「ある理由」ですか・・・。」
ここまで引っ張ったとなるとよっぽど言いづらい理由なのだろうなと想像した守は少し気になりつつも店を後にすべきなのではと思い始めた、しかし飲食店のいち経営者である好美はランバルが店を開ける事が出来ない理由を聞きたくて仕方が無かった。と言うよりお腹が空き過ぎて仕方が無かっただけなのでは?まぁ、そこは気にしないでおくか・・・。
好美「差し支えなければお聞きしても宜しいでしょうか。」
ランバル「実は・・・、私の兄の事でして・・・。」
守「お兄さん?」
もしかして家庭の事情という奴なのだろうか、だとしたら第三者が聞いてはいけない話である可能性も十分ある。
好美「それ私達聞いても良い話なんですか?」
ランバル「勿論です、折角お越しいただいたのに水以外何もお出ししないのも情けないだけですので良かったらお付き合い願えますか?」
好美「まぁ・・・、良いですけど・・・。」
好美の返答に安心したのか、自らもグラスに注いだ水を片手に2人と同じテーブルの向かいの席に座った。
ランバル「実はと申しますと、元々私の兄は王城で大臣をしているのですが王様の命令か何かで今は近くの駐車場で商売をしている「暴徒の鱗」の屋台で拉麵屋の修業をしているんです。」
何処かで聞いた話だなと思った好美は似たような案件をゆっくりと思い出そうとしていた、そしてふと思い出した事が1つ。
好美「もしかして・・・、ミスリルリザードのロラーシュさんの事ですか?」
ランバル「おや、兄をご存知だったんですね。その兄が屋台で修業をし始めたばかりの頃にふらっとここにやって来ましてね、その時の発言に頭を悩まされているんです。」
ロラーシュは何を言ったのだろうか・・・。