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本当に契約しちゃったのね・・・。
-176 契り(契約)-
その場において第三者となる守の視点から見れば契約を交わした好美とベルディは書類上での「甲」と「乙」の関係となり、決して「姉(姐)弟」と言える様な物ではなかった。恋人の事を「姐さん」と呼ぶ女将から受け取った「あれ」、そう、スコアシートを見ていた守にはただもう1つ引っ掛かっている事が・・・。
守「好美・・・、お前何も不自然には思わないのかよ。」
好美「別に、私も了承した事だから良いと思うし、「甲」と「乙」といった契約者同士より「姐さん」と「弟分たち」の方が何となく一緒に仕事し易いもん。」
守は好美が良いと言うならと別に気にしない様にしてはいたが、対する番頭・女将夫婦は納得しているのだろうか。
ネイア「納得も何も私達の方から「姐さんと呼ばせて下さい」と申し出たんです、好美さんが心の広いお方で嬉しいですよ。」
ベルディ「それに共に働くとなると家族同然の様に接した方が互いに気楽ですからね、実は亡くなった私やイャンダの祖父からの言い伝えだったりするんですよ。」
ただ1つ、守には気がかりな点があった。当の本人である好美がいない間にどうして契約の話が進んでいたのだろうか。
時は恋人達が1ゲーム目を始める寸前に遡る、事前に予約してきた団体を含んだお客たちの出迎えや受付等を数人の仲居や従業員達と共に済ませたベルディは一旦その場が落ち着いたので小休止を取ろうとフロント裏にある従業員用の喫煙所へと向かった。
ベルディ「ふぅ~・・・、疲れた・・・、そうだ・・・。」
ゆっくりと煙草を燻らせながら「例の事」を弟であるイャンダの耳に入れておこうと懐からスマホを取り出した番頭、アプリの連絡帳から弟の電話番号を表示させつつも1つ気になっている事を思い出して手を止めた。
ベルディ「あいつ・・・、俺の事を恨んでいないかな・・・。」
本人の背中を素直に押してやる事が出来なかった事を悔やんでいた兄は、あれから音信不通となっていた弟の声を聞くのが何となく怖かった。しかし、自分が申し出た契約の事なので迷う事はやめて電話をかける事にした。深呼吸したベルディが電話をかけると、数回コール音が鳴った後にやや小さめの声でイャンダは電話に出た。
イャンダ(電話)「も・・・、もしもし・・・。」
ベルディ「もしもし、久しぶりだなぁ。イャンダ、元気にしてたか?」
イャンダ(電話)「ああ・・・、兄貴こそ・・・。えっと・・・、旅館の事を全て押し付ける様な事してごめんよ?」
イャンダはベルディの事を決して恨んではいなかった、寧ろ自分勝手な行動をしてしまった事を反省してずっと兄に謝りたかった様だ。どうやらベルディが一方的に気持ちをぶつけてしまっていただけだった様で、「イャンダの人生は本人だけの物」と気付けて本当に良かったと思ったらしい。
ベルディ「いや・・・、俺の方こそあの時は言い過ぎてすまなかった。それでなんだが・・・、お前が店長をしている拉麵屋の方は好調かい?」
イャンダ(電話)「ぼちぼちさ、でも兄貴のお陰で楽しくやらせて貰っているよ。それがどうしたんだ?」
ベルディは旅館の1階にあった料理屋が向こう側の都合で立ち退いてしまった事実と「暴徒の鱗」に支店を空きスペースに出さないかという提案について弟に話した、ただ宿泊客(恋人達)については旅館の者として守秘義務があるので話さないでおいた。
イャンダ(電話)「そうか・・・、嬉しい話なんだが俺の独断では出来かねるな。前にも言った通りなんだけど俺は雇われの身だから好美ちゃんっていうオーナーに聞いてないといけないんだがここ数日の間、そのオーナーが店に顔を出して来て無いし家に連絡しても出ないからどうしようも出来なくてさ。取り敢えず別の店舗の経営陣と相談してみた上で俺から好美ちゃんに連絡するまで待ってて貰えるかな?それからでも遅くないだろう?」
好美とは会った事の無い様に装うベルディ、どうやら演技は得意分野の1つの様だ。そうしてパルライやシューゴ、そして渚達が相談した上で今に至るとの事。ただどうして好美がこの状況に順応しているのかが気になって仕方が無い。
好美「単純よ、イャンダからメッセージが来たの。「大切な話があるのでご連絡頂ければ幸いです、貴女様の豚野郎より」って。」
おいおい、元竜騎士に何て呼び名付けてんだテメェ!!
え・・・、まさか・・・。




