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守は目を疑っていた・・・。
-170 化け物-
ほぼほぼ満腹だったので正直体が水しか受け付けなかった守からすると、先程まで大量に食事したはずの恋人が山盛り(推定5kg)の焼きビーフンを完食したという事実を信じたくなくても受け入れるしかなかった。
守「好美・・・、よっぽど腹減ってたんだな。気付いてやれなくてごめんよ。」
好美「良いって事よ、「これでもか」と言う位に食べてやったから問題無いって。」
それもそのはず、もう大広間の隣にある調理場内の冷蔵庫には殆ど食材が残っていなかったのだ。実は、最後の料理としてビュッフェに出て来た「焼きビーフン」は元々従業員の食べる予定だった「賄い料理」だったのだが何も知らなかった好美が全て食べ尽くしてしまったので厨房の担当者達は全員顔が蒼ざめていた。
担当者①「あのお客さん・・・、化け物かよ。」
担当者②「し~っ・・・、そんな事言っちゃ駄目でしょ。」
担当者③「そうだよ、今解決すべき問題は俺達の食べる物が全くない上に「焼きビーフンが出来ない」って女将さんにバレたらどうするかという事じゃないか?!」
3人の担当者達は顔をより一層蒼ざめさせながら想像を膨らませてしまった、そう「焼きビーフン」は女将であるネイアの大好物で当の本人は今日の賄いを誰よりも楽しみにしていたという。「5kgあるから十分残るだろう」という軽い気持ちで料理を運んでいた時も馬鹿食いしてた好美の前に出すべきではなかったと全員落胆していた。
担当者②「どうするの?今からでも走って食材を調達しなきゃ全員クビじゃ済まないわよ。」
これは俺の自論ではあるが、食事を楽しみにワクワクしながら折角大広間まで足を運んで下さったお客様を「在庫がありません」と追い返してしまう方がクビでは済まないレベルだと思われる。しかし3人はパニックになってしまっていた為に思考がおかしくなっていた。
担当者③「どうするよ・・・、いつもの店はまだ開店時間では無いぞ。」
時計は午前7:30を示していた、この旅館は数か月ほど前から酒類を含めた食材系統を全て「バルフ酒類卸」に委託注文しているのだが等の卸業者が店を開けるのは午前9:30だった上に従業員が誰も来ていない時間なのでまだ電話にも応じてもらえないというのだ。しかし、「賄いが作れません」と諦める訳にも行かないと思った3人は急ぎコックコートを脱ぎ捨てて近くのスーパー(午前7:00開店)へと走って行った、正直十分な食材があれば良いのだが3人に出来るのは「ただただ祈りつつ走る事」だけだった。
そんな事を全く知らない「化け物」改め好美は守を連れて客室へと戻った、流石に大量の食事をした後は部屋の何処かに座り込むかと思われたが好美はすぐさま脱衣して露天風呂に向かってしまった。その光景をチラッと見た守は何故か疲れていたので露天風呂に近いスペースに適当に座っていた。
好美「あれ?守は入らないの?折角だから入って行こうよ。」
ゆっくりと体を起こしながら水を一口飲んだ守は再び好美のいる方向を見て尋ねた。
守「今動けそうも無いから後で入るよ、それにしてもその体の何処にあんな量が入るんだ?周囲の人に「化け物」って言われてもおかしくないぞ。」
正しくご名答である、実際好美は厨房や掃除担当者、そしてネイアに裏で「化け物」と呼ばれていた。
好美「あれ?「私の胃袋はブラックホールだよ」って昔言わなかったっけ?」
何処かで聞いた覚えがあるが好美からではない気がするのは俺だけ(と言うより権利的に大丈夫か)?
守「ああ・・・、今その言葉を実感してるよ。御見それしました。」
守は恋人の「大食い」を抵抗しながらも認めざるを得なかった、ただ体が少し楽になって来たので一先ず露天風呂へと入る事に。
守「はぁ~・・・、朝に入る風呂も悪くは無いかもな・・・。」
好美「そうだよ、折角備え付けになっているのに勿体ないじゃない。」
東から昇ったばかりの朝日が優しく辺りを照らし始めたのを眺めながら入る露天風呂は確かに格別だった、きっと守はこの機を逃すと結構な後悔をしたと思われる。
守「好美・・・、次何処行こうか・・・。」
この先本当にどうなることやら・・・。