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おいおい・・・、勝手に契約しちゃうのけ?
-164 プライベートなので-
旅館の番頭の言葉は嬉しかったのだが店を出す事に関しては「ビル下店」だけの問題では無くなるので好美の一存で決定する訳にはいかない、必ず共同経営者との話し合いの場を持った上で決めなければならないが今は折角の旅行中なので仕事の事は忘れていたい。
ただ旅館の一部が空いているとはどういう事なのだろうか、好美は一先ずベルディに理由や詳しい話を聞いてみる事にした。
好美「あの・・・、この旅館の1階に空きスペースなんてありましたっけ?」
玄関先で従業員達が恋人達を出迎えた時にはその様なスペースを見かけなかった。
ベルディ「玄関から入ってすぐの所にカーテンで囲まれたスペースがあったでしょう?」
玄関で周囲を見回す余裕が無かったので全く覚えていない、好美はどうしようか悩んでいた。
好美「すみません、宜しければご案内して頂けませんか?」
ベルディ「勿論です、こちらへどうぞ。」
2人は番頭の案内で1階へと向かった、先程は全然気づかなかったが玄関から入ってすぐの場所には数匹の鯉が泳いでいる小さな人工の池があったがその向かいにカーテンに囲まれたスペースがあった。
好美「あのスペースですか?」
ベルディ「そうなんです、以前は先代である父の知り合いのシェフが経営する洋食屋が入っていたんですが数週間前にダンラルタ王国に御兄弟と店を出そうと思っていると言って出て行ってしまったんです。ただ厨房等の設備はそのまま残っているのでご検討頂けませんでしょうか?」
好美「私は良いんですけど・・・。」
ベルディ「「けど」・・・、何です?」
好美「独断では出来ないんですよ、申し訳ないんですが今はプライベートでの旅行中なんでこれが終わってからでも良いでしょうか?他店の経営者達と集まって話し合わないといけないんで一旦持ち帰りたいんです。」
目の前で繰り広げられるビジネストークに慣れている様子から好美の敏腕さが伺えた、正直カペンに乗って移動してた酔っ払いと同一人物とは思えない。
好美「黙って聞いていたら誰が酔っ払いよ、相変わらず失礼な奴ね。」
おいおい、散々「バルフ酒類卸」で酒を吞みまくっていたのは誰なんだよ。ずっと運転してた守の顔を見ろよ・・・、ってあれ?何で平然としてんだよ!!酒臭いからってずっと我慢して辛そうな顔してたじゃんかよ!!
守「いや別に、ただ鼻がムズムズしてただけなんだけど。」
久々に喋ったと思ったら紛らわしいんだよ、まぁ別にどうでも良い事だから気にしてないんだけどさ・・・。
守「取り敢えず持ち帰るって事で仕事の話は終わったんだろ?一先ず露天風呂でも入らないか?」
好美「そうだね、折角ゆっくりしに来たんだからうんと休まないとね。」
ベルディ「私の勝手な行動や我儘に付き合って頂いてすみません、お詫びと言ってはなんですが瓶ビールをサービスさせて頂きますので。」
好美「本当ですか、やった!!」
突如飛び込んで来たビジネスチャンスやビールのサービスに思わず笑みがこぼれる好美、本人はまさに守がずっと見たがっていた表情をしていた。
ベルディに貰った書類を『アイテムボックス』に入れた好美は、客室の鍵を開けて室内に入るとすぐに服を脱ぎ捨て水着に着替えて露天風呂へと飛び込んだ。おい好美、大人の事情を考慮してくれるのは嬉しいがだらしないったらありゃしないぞ。
好美「良いでしょ別に、早くお風呂に入り・・・。」
風呂ん中で息をブクブクさすな!!お前は子供か!!
好美「私だって子供に戻りたくなる時だってあるもん、でもすぐにちゃんとした大人に戻るんだから安心してよね!!」
守「おいおい・・・、まさかと思ったがもう始めてたのか・・・。」
遅れて入って来た守は唖然としていた、好美が風呂を楽しみながらもう呑んでいたのだ。
相変わらずだな、まぁ予想はしていたが。




