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平和なままチェックインしたいんだが?
-162 優しかった番頭と身近な人間-
好美達の受付を旅館の番頭である男性が行っている中、女将は奥で働いていた仲居に呼ばれた為に一旦その場を離れた。
女将「申し訳ありません、すぐ戻って参りますので。」
好美「いえいえ、お気になさらず。旅館の女将さんも大変ですね。」
女将「恐れ入ります、何か分からない事があればこの役立たずに何でもお申し付けくださいませ。」
番頭「母ちゃ・・・、いや女将。そりゃないだろう。」
愛想笑いを見せながら奥へと消えた女将を見送った男性は用紙が取り付けられたバインダーを好美に優しく手渡した。
番頭「宝田様大変申し訳ございません、誠に恐れ入りますがこちらに必要事項のご記入をお願い出来ますでしょうか。」
男性に手渡された用紙をじっくりと眺める好美達、どうやら2人の氏名や緊急連絡先等と言ったよく聞かれる情報を書いて欲しいという物だった様だ。じっくりと読み込んだ好美が用紙に書き始めようとすると、女将が奥から戻ってきた。
女将「すみません・・・、奥がバタバタしていた物で。」
番頭「女将・・・、一体何があったんだ。」
女将「いつもの事だよ、ほら406号室に泊まっているいつものあのお客様。」
番頭「またあの人か・・・、これで今日呼び出すの何回目だよ全く。」
2人の言動から呼び出した客は常連で泊まりに来る度に下ら・・・、いや些細な事で女将を呼び出して困らせているらしい。
番頭「それで?今回は何だったんだ・・・?」
女将「呆れたもんだよ、「いつものお茶の味が違うんだがどうなっているんだ」だって。茶葉の入っている容器にいつも銘柄を書いているのに何で気付かないのかね。目が悪いのか頭がおかしいのかこっちが聞きたい位さね。」
目の前に好美達がいるにも関わらず、呼び出して来た宿泊客がいないからって好き勝手に悪態をつきまくる2人。そんな中、記帳を始めようとした好美が有る異変に気付いた。
好美「あの・・・、あの・・・、すみません・・・。」
好美の声掛けによりやっと恋人達がいた事を思い出した女将、これが天然での行動だと言うならあの客のインパクトはかなり強かったと言える。
女将「あ・・・、ごめんなさいね。どうされました?」
好美「すみません、インクが出ないんですけど。」
バインダーに繋いでいたボールペンのインクが空になっていた事に気付いた番頭は、急ぎ自分の胸ポケットに挿していたボールペンを好美に手渡した。
番頭「大変失礼致しました、私ので宜しければお使いください。」
番頭からボールペンを借りた好美は数分かけ記帳を終えて返した。
好美「ありがとうございます、えっと・・・。」
好美が名札らしき物を探しているのを察した番頭。
番頭「ベルディです、番頭のベルディ・コロニーと申します。そしてこっちが妻で女将のネイアと申します。」
「コロニー」という苗字を聞いてある人物の事を思い出した好美。
好美「すみません・・・、もしかして「コロニー」さんってイャンダさんの・・・。」
イャンダの名前を聞いたベルディは先程までにこやかにしていた表情を一変させ、頭に血を登らせた様に奥へと消えて行った。
好美「あの・・・、私何かまずい事言っちゃいましたかね?」
ネイア「いえいえ、お気になさらないで下さい。ただうちの人とイャンダさんは兄弟で私がここに嫁いで来た時から不仲だったんです。」
好美は余り気にしない様にしていたが、心中でモヤモヤしながら客室に向かった。
折角の旅行なんだし余り気にしない方が良いんじゃ無いか?