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大量の胡瓜と白菜を目前にして頭を抱える3人。
-⑯ 悩みの種は本鮪-
丁度その頃、好美がオーナーである「暴徒の鱗」ビル下店の調理場では想像通りの騒動が起こっていた。何も無かったはずの厨房に突如現れた大量の胡瓜と白菜をどうするべきかを店長と副店長、そして偶然居合わせたナイトマネージャーが頭を抱えて悩んでいた。
イャンダ「デルア、お前これについて何か聞いているか?」
デルア「いや、俺は全く。ピューアちゃんは?」
ピューア「私も全然。」
3人「という事はまさか・・・。」
以前も同様の出来事が起こっていたからか、2人の元竜将軍達とニクシーは犯人が分かっていたので同時にため息をついた。
3人「好美ちゃん・・・、だよな・・・。」
ピューア「何も考えずに馬鹿な買い物するなって前にも言ったのに。」
デルア「確か前は本鮪を丸々だったよな、いくらギャンブルが強いからってやり過ぎだよな。イャン、お前から何とか言ってくれよ。俺、兄貴にまた土下座するのは御免だぜ。」
3人によれば話は数週間前の事、突如暇になった好美は偶然休みだった真希子とぶらっと近所の競艇場にいた。因みにこの頃、まだ2人は守と再会していない。
真希子「次は6レースだね、好美ちゃんはいつも通り3連単で行くでしょ?」
好美「当たり前ですよ、それ以外あり得ませんもん。」
きっと現実世界にいる守は2人がギャンブルにハマっているだなんて想像も付かなかっただろうに。
真希子「何を軸に買うかい?私は断然内枠の②だね。」
好美「いや、このレースは外枠の⑤⑥を軸にしても面白いと思います。」
好美は生前、地元・徳島に帰省していた時に父の操と鳴門競艇場へと通っていた事が有ったので知識はあった。
真希子「光ちゃんがいたら予想はしやすいんだけどね、あの子強いから。」
好美「えー、真希子さん弱気になっているんですか?」
真希子「最近連敗中だから不安なんだよ。(念話)光ちゃん、ちょっと良いかい?」
光(念話)「やれやれ・・・、言ってくると思いましたよ。私も好美ちゃんの予想に乗ってみても良いと思いますけどね。」
真希子(念話)「あらそうかい、光ちゃんが言うなら間違いないね。」
光はこの2日前にも大勝ちして黒毛和牛を1頭買いしたという実績があるので信頼度は高い、当然真希子も好美と光に乗ってみる事にした。
数分後、レースが始まりあっという間に終了した。周囲の住民達が愕然としている中、2人の転生者達は喜びに舞い踊っていた。
好美「ほら、言ったでしょ!!」
真希子「本当だね、あんたに乗って正解だったよ。それにしてもよく分かったね、お陰で4200万円も儲かっちゃったよ!!こりゃ家買えちゃうね、お引越しを考えなきゃ。」
好美「そんな寂しい事言わないで下さいよ、お店用に鮪買った時お裾分けしますから。」
真希子「私も店用に買おうと思っているのにかい?店長パニックだね。」
その数時間後、真希子の働く店の厨房で光の旦那であるデルアの兄・店長のナルリス・ダルランの下に真希子の買って来た鮪が届いた。商品にタグが付いていたらしく、すぐに『念話』が飛んできた。
ナルリス(念話)「真希子さん・・・、これどうするんですか?」
真希子(念話)「カルパッチョとかシチューとかに出来ないかい?サービスメニュー的な。」
ナルリス(念話)「そう言われましても、俺はこんなに大きな魚捌けませんよ。弟にでも頼まないと・・・、一応頼んではみますが・・・。」
丁度その頃、頭を抱える兄の下に好美からの「お裾分け」を持って噂の弟が来店した。
デルア「あれ・・・?兄貴の所にもなのか?これ好美ちゃんからのお裾分けなんだけど。」
ナルリス「嘘だろ、真希子さんが追加するって今言って来て困ってたのに。」
弟は決死の覚悟で土下座して兄にお願いした。
デルア「兄貴・・・、ここにあるやつも捌くから頼むよ!!好美ちゃんが俺達に何も言わずに卸業者から10本も買ったらしいから大騒ぎなんだ!!」
ナルリス「はぁ・・・、こりゃ転生者とやらの金銭感覚を疑っちまうな・・・。」
流石転生者胃の持つ1京円の力は違う・・・。