153
おーい、お前らまだ走るつもりか?
-153 思い出をもう1度-
2人を乗せた車は「バルフ酒類卸」を出てからずっとまっすぐな道を走っていた、ただその道のりは高速道路でも無いのに軽自動車にとってはかなりの距離を言っても過言では無かった様だ。
カペン「お2人はん、雰囲気から察するにお楽しみの様ですので水を差す様で申し訳ないんですけど少し退屈して来ましたわ。」
守「いやいや、『アイテムボックス』の中にずっといるままよりは断然マシだろう。」
確かに守の言葉には一理ある様に思われた、しかしカペン本人(?)からの目線からすればそれ以上に今の状況を退屈だと思ってしまう理由があった様だ。
カペン「守はん、昔みたいに峠を走ったりしませんのかいな。ほら、真希子はんと一緒に走っていた時みたいに。」
カペンの言動から察するに、元の世界にいた頃の真希子との記憶が強く根付いたと推測された。きっと走り屋の、いや「紫武者」の仲間の一員として峠を攻めていた記憶が蘇ったのだろう。
守「安心しろって、この旅行が終わったら嫌と言ってしまう位に母ちゃんと走らせてやるからよ。」
ただ1つだけだが守は愛車に伝えなければならない事があった、元々母が「紫武者」と呼ばれていた最大の理由だ。
守「ただな・・・。」
一瞬真実を告げるべきか迷った守、久々の愛車とのドライブ中にそんな宣告をしていいのか正直分からなかった。
カペン「「ただ」・・・、何でっか?何か言いにくい理由でもあるんでっか?」
守「特に理由は無いけど・・・、なぁ・・・。」
好美「「理由は無いけど」何よ、ちゃんと言ってあげないとカペンちゃんが可哀想じゃない。」
本心からカペンをフォローをしているのか、それともただただ守を責めたいのかが分からない言葉を発する好美。しかし、カペンは好美の言動が嬉しかった様で・・・。
カペン「よく言ってくれましたわ、好美はんがそう言ってくれたら守はんもちゃんと理由を話してくれるはずですわ。」
カペンの口調は何処か嬉しそうと言うか、楽しそうと言うか・・・。
守「別に言いづらい訳じゃ無いんだけど・・・、実は母ちゃんがスルサーティーから乗り替えたんだよね・・・。」
カペン「えっ・・・?!」
別に守がブレーキを踏んだ訳では無かったのだがその場で急ブレーキをかけて止まったカペン、持ち主により伝えられた事実に驚きを隠せなかったらしい。
カペン「それは・・・、ほんまでっか・・・?」
守「本当だけど、急に止まったら後ろの車に迷惑だろ。」
確かに突然道の真ん中で突然止まったカペンの後ろでは数台の車が列をなしていた、皆かなりご立腹との事でクラクションが鳴り響いていた。
カペン「すんまへん・・・、一先ず発車しますわ。」
カペンは自らの意志でその場から発車した、後続車に謝罪の意を示す為に守が数秒程ハザードを点滅させていた。
数秒後、気持ちを落ち着かせたカペンは聞き間違いだと良いと願いながらもう一度守に確認しなおした。
カペン「あの・・・、ホンマに真希子はんはもうスルサーティーに乗ってないでっか?」
守「さっきも言った通り母ちゃん本人は別の車種に乗り替えたけど、スルサーティー自体は弟子のピューアさんが乗ってるはずだよ。」
好美「そうだよ、うちのマンションの駐車場に止めて大切に乗ってるのを私知ってるもん。」
守「でも母ちゃんが車を替えたからってお前に何か問題があるのか?」
カペン「い・・・、いや・・・、別に・・・。」
どうしてカペンは躊躇いを持っていたのだろうか・・・。
カペンの肚の中とは?