152
行き当たりばったりの旅行、どうなるのだろうか・・・。
-152 忘れてた-
無心でただひたすらに運転する守の隣で長い間(何故か2台の)スマホと睨めっこしていた好美、さて今夜の宿は見つかったのだろうか。
好美「え?今夜の宿って何の事?」
おいおい、さっきから今宵何処で過ごすかを探していたんじゃないのかよ。もしそうだとしたら何を見ていたんだと言うんだ・・・、どれどれ・・・、ってビールの醸造所かよ!!学生時代や元の世界で夜勤をしていた頃から脳内は酒の事でいっぱいなんだな、相も変わらずだぜ。
好美「何人の携帯覗いてんのよ、失礼じゃ無いの?!」
いや、さっきから守が必死に近辺の2人で泊まる宿を探しながら運転しているというのに自分の為の調べ事をしていたお前の方がよっぽど失礼だと思うが?
好美「仕方ないじゃん、さっきのお店で呑んだビールが美味しかったから何処のやつかきになっていたんだもん・・・。」
どうやら「バルフ酒類卸」が小売りを始めて数日後より醸造所から樽単位で買っているビールを、お客さんがその場で呑める様にグラスに注いで提供していた物の味に感銘を受けた好美はこのビールを是非「暴徒の鱗ビル下店」で提供したいと思って調べ始めた様だ。ただイャンダやデルア、そして他の経営者達と相談せずに契約を交わして仕入れても良いのかどうかが疑問視されるのだが・・・。
好美「大丈夫よ、「ビル下店」だったら勝手に鮪や野菜を沢山仕入れてもすぐに対応してくれるもん。」
そう言えば過去にそんな事あった様な気がするな、ただ店側の者達は突然の仕入れに毎度毎度パニックになっていたぞ。
好美「何その言い方、それだとまるで私が店の従業員と敵対しているみたいじゃない。」
守「ハハハ・・・、今までの好美の行動を考慮するとそう言われてもおかしくは無いよな。」
好美「守まであいつを庇うの、酷い・・・。」
少し寂し気な表情をする好美、それを見て気を利かせた彼氏は最近やっとやり慣れて来た『転送』を使って恋人に手渡した。
守「悪かったよ、ほら、これでも飲みな。」
自宅の冷蔵庫で冷やしていた麦茶を手渡した守、しかし好美の反応は予想通り。
好美「ビールが良い・・・。」
守「おいおい、昼間っからどんだけ呑むつもりだよ。」
好美「だって、皆私が「暴徒の鱗」のバイヤーだって事認識してくれて無いんだもん。」
今までギャンブルでの泡銭で買った物は一応バイヤーとしての「仕入れ」だった様だが、今思えばあの拉麵屋にバイヤーなんて役職があったのかが疑問であるが今は2人の旅行の事を(必要かどうか分からないが)内緒にしておくために他の者に尋ねる訳にもいかない。
守「それで・・・、倉下バイヤー(?)。お目当ての醸造所はお見つかりになりましたか?」
「倉下バイヤー」と言う言葉に対する違和感があったからか、守の恋人に対する質問が何処かおかしく聞こえたのは俺だけだろうか。
好美「守・・・、気持ち悪いからその呼び方やめてよ。酔って無いのに吐き気がするじゃない。」
守「ハハハ・・・、それは悪かったよ。んで?醸造所は見つかったのか?」
どうやら好美に合わせて行先を醸造所に決めた様だ、ただその道中で今夜の宿が見つかると良いのだが。
好美「今夜の宿・・・、あ!!すっかり忘れてた、ビールの事で頭が一杯になっちゃった。」
やっぱりか・・・、流石行き当たりばったりの旅だよな・・・。
守「まぁまぁ、俺も見に行ってみたかったから丁度いいよ。後でちゃんと宿を探そうな。」
守・・・、好美の行動等を必死にフォローしていたみたいだがその間宿を探すのをすっかり忘れていたお前も同罪だからな。
だからちゃんと宿を探せって・・・。