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あの・・・、酒以上に重要な要素を忘れてませんか?
-151 重要な要素-
「バルフ酒類卸」の端で少し頬を膨らませながらビールをどんどん追加していく好美、何処からどう見ても我慢している人の表情にしか見えないが本人が自分の主義を優先させたいと言う意志が強かった為に誰も止めようとはしなかった。もしも止めようものならまるで両親に躾の一環としてお菓子を禁じられた子供の様に泣きわめくであろうと周囲の全員が想像してしまったからだ、店内にいたバルファイ王国の住民達は誰もそこにいる女の子がネフェテルサ王国で最も大きな高層マンションの大家をしている者だとは想像もしなかっただろう。
守「あの好美さん・・・、決して駄目とは申してはいないのですがいくら何でも多すぎやしませんか?」
買い物かごいっぱいに入った缶ビールを眺めつつも、後先の事を考慮してじっくりと言葉を選びながら質問した守。もしも目の前で未だに頬を膨らませる恋人に下手な事を言ってしまえば店を出てからの車内が修羅場と化すのが目に見えて仕方が無かった、可能な限り危険を未然に防ぐのが大人の考え方である。
ただ彼氏の言葉を聞いた好美の反応は周囲の者達の予想からは大きく反する物だった、その見た目からは守が好美を泣かせたのではないかとも思わせてしまう様な雰囲気が醸し出されていたのだ。正直、気遣いが故に守から発せられた敬語がかなりの攻撃力が合った様で・・・。
好美「多く・・・、無いもん・・・、『アイテムボックス』に入れて少しずつ呑もうって思っただけだもん・・・。」
守「そ・・・、そうだよね・・・。折角の旅行なんだから酔い潰れちゃ勿体ないもんね。」
好美「それに独り占めする訳じゃ無いもん、確かに免許は持って無いけどずっと運転してくれてる守と一緒に後で吞みたくて多く買っただけだもん。」
もしも俺が守の立場だったら好美のその気持ちがとても嬉しかったのだが好美の持つカゴに入っていたビールはまだ未精算だったので先に会計をしてしまおうと提案したいという意見も発したくなってしまっていた、いくら『アイテムボックス』を使っていると言っても流石に転生者達に万引きをさせる訳にはいかないので。
好美「何よ、折角の雰囲気を壊さないでよ!!ちゃんとレジに持って行くに決まってんじゃないのよ!!」
そ・・・、そんなつもりは・・・、何かすんません・・・。
好美「もう・・・、早く行こうよ。いつまたこいつに茶々入れられるのか分かんないもん。」
「あいつ」やら「こいつ」やらと・・・、お前ら俺の扱いが物凄く雑じゃ無いか?
守「だってよ、こっちからは全く姿が見えない奴にただただぶつくさ言われるのってあんまり気分が良いもんじゃないんだぞ。」
まぁ、それもそうだな。取り敢えず会計済ませに行けよ、そろそろ大事な「あれ」を決めないといけないだろ?
好美「「あれ」?あんたは何言ってんの、「あれ」って意味が分かんない。」
守「そうだぞ、行き当たりばったりの旅行なんだから何でも予め決めちゃったら面白くないだろうが。」
おいおい・・・、マジかよ・・・。「あれ」って言ったら今夜の宿じゃねぇのか?まさかと思うが野宿するつもりじゃなかったんだろうな?勘弁してくれよ、主役クラスの登場人物カップル2人が揃いもそろって道端で寝てるだなんて俺は嫌だぞ。
守「馬鹿な事言うな、流石にそれは無いわ!!」
好美「へぇー・・・、じゃあ良い宿を予約してくれているんだ。」
顔をニヤつかせる好美を見ながら少し顔を蒼白させる守、まさかと思うが・・・。
守「きっとこういうのは結愛とかが何とかしてくれるかな・・・、って思ったから・・・、ごめんなさい!!」
結愛はこの卒業旅行自体を知らなかったので宿を探してくれている訳が無い、ただ折角恋人同士で来ているんだから良さげな宿で一晩を過ごして欲しいと願ってしまうのは俺だけだろうか。
好美「偶には嬉しい事言うね、さっきとは全然違うじゃん。」
少し嬉しそうにスマホで宿を探す好美、一先ず安心出来そうだ・・・。
野宿は免れた・・・。




