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ただただ2人は暑さから逃げたかった。
-150 好美にとってのオアシス-
恋人達は植物楽園の駐車場を後にして再びまっすぐな道を何も考える事無く走り始めた、と言っても「暑い」という一言はずっと脳内に残ってはいたのだが。
好美「取り敢えず飲み水があれば助かるね、念の為に多めに買っておかない?」
守「賛成だな、こんなに暑いとどれだけあっても足りないかもしれないからな。」
猛暑の中でひたすらに店を探していた2人、ネフェテルサ王国(と言うより2人が住むマンション)の様にすぐ近くにコンビニが有る訳では無かったのでかなり苦労したが楽しいドライブの時間が延びたと思えば難なく耐える事が出来た。
5分程走ると2人の目線の先にある店が見え始めた、暑さだからかどんな場所でも良いと思い始めた守は何も考える事無く駐車場にカペンを止めた。
カペン「またワイをこんな暑い所に放置するつもりでっか?」
守「「放置」だなんて人聞きの悪い事言うんじゃねぇよ、駐車場以外に何処に止めろって言うんだよ。」
確かに双方の言い分は分からなくもない、ただ店用の駐車場があると言うのに路上駐車をする者などいるのだろうか。
好美「すぐに戻って来るから待っててね、お利口さんにしてたら後で冷たいお水をかけてあげるからさ。」
好美の一言を聞いてから数秒程沈黙したカペン、何かあったのだろうか。
カペン「ま・・・、まぁ・・・、待たないとは一言も言ってませんし・・・。」
守「お前、暑さでどうにかなったんじゃないのか?」
カペン「何を言っているんでっか、無事に目的地に向かえる様に持ち主を待ち構えるのも車としての使命の1つですわ。」
ボディ自体はシルバー1色なのだが、ほんの少しヘッドライトの真下辺りが赤くなった様に見えたのは気のせいだろうか。
守「お前・・・、まさか・・・。」
カペン「ワイはただの車でっせ、持ち主の恋人に惚れる訳が無いですやんか!!」
守「俺・・・、まだ何も言って無いけど自分から全部吐いてくれたから助かるわ・・・、って好美に惚れたのか?!」
どうやら元の世界にいた頃から好美と再会したかったのは守だけでは無かった様だ、ただ人間が車に惚れこむ事案はよく聞いた話であったが逆があるとは思いもしなかったな。
好美「ヘヘヘ・・・、私もモテるもんだね。いっその事カペンちゃんと付き合っちゃおうかな。」
カペン「カペンちゃんだなんて照れるやないですか、そんなん言われたの初めてですわ。」
守「好美!!」
誰も乗っていないのに勝手に少し動いた様に見えたのは守や俺だけだろうか、いくら意志があるからってサイドブレーキをしっかり上げている車に動かれるのは困りものだ。
守「全く・・・。兎に角ずっと話していても暑いだけだから店に入ろうよ、店がすぐ傍にあるのに冷たい飲み物含めて全てが遠く感じちゃうよ。」
好美「そうだね、カペンちゃんはちょっと待っててね。」
守「何でもありだからって勘弁してくれ・・・。」
恋人達は駐車場から数歩程歩いて店に入った、店の看板等をよく見ずに入ったので今頃気付いた事なのだがこの店は好美の好物の「あれ」で満たされていた。
好美「ここ・・・、酒屋さんだね。」
どうやら2人は知らぬ間にナルリスが贔屓にしている「バルフ酒類卸」に来ていた様だ、店にはアルコールは勿論だが隅でソフトドリンクやお菓子も揃っていた。
守「取り敢えず冷たい飲み物を買おう、こういう時はスポーツドリンクが一番良いよな。」
ただ守は少し離れた所にいる好美が片手に持っていた物を凝視していた、店に入った時からある程度予感はしていたのだが何処からどう見ても缶ビールだ。
守「好美・・・、気持ちは分からなくも無いが今呑むと逆に水分が無くなるぞ。」
好美「良いじゃん、私は基本的に好きな物を決して我慢しない主義なの!!」
守「あ・・・、そっすか・・・。」
後先を考えない女、好美。




