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好美は買い過ぎという事に気付いているのだろうか。
-⑮ 狼男の敗北-
好美は露店にある胡瓜と白菜を全て買う様にとは言ったものの、その量をちゃんと把握しているかどうか、守は不安で仕方がなかった。
自分の口から「安くする」と言ったケデールも、正直生活に大きな支障が出ないかと心配になっていた。何故ならこの日、ケデールは卸業者から胡瓜を10ケース、白菜に至っては30ケース仕入れていたからだ。
守(念話)「好美、どれだけあるのかちゃんと分かって言ってんのかよ、こんなに全部食える訳がねぇだろう。」
胡瓜は1ケース30本、また白菜は1ケースに4玉なので尚更だ。
好美(念話)「全部自分で食べるだなんていつ私が言ったって言うのよ、店で使うから買ったの。」
そう、好美は自らがオーナーを務める1階の拉麵屋「暴徒の鱗」で使用するつもりで全部買い上げたのだ。しかし、こんなに大量の野菜を何にするつもりなのだろうか。
好美(念話)「えっと・・・、全部キムチよ!!」
守は「絶対今考えただろ」と思いながら頭を搔いていた。ただ、問題がもう1つ浮上していた事は間違いない。
守(念話)「買ったとしてどうやって運ぶんだよ。」
現実世界でだとこういった考えになるが、やはりここは異世界。
好美(念話)「『転送』して貰ってよ、店の調理場に。」
この後、『転送』した先で突然大量の野菜が出現した事による騒動が起こった事は言うまでもない。
守(念話)「でもまだ支払いもしていないし、そんな金何処にあんだよ。」
守は決められた予算しか持って来てなかったし、ATMのある店は少し離れた所だ。
好美(念話)「もう送ったもん、その露店のレジ横に。」
ふと奥の方を見ると札束が大量に積まれていた、どうやら値段を把握していた訳ではなさそうだ。
ケデール(念話)「好美ちゃん、こんなには受け取れないよ、殆どチップってのかい?」
好美(念話)「そんな訳ないじゃん、御釣りは返してよね!!」
やはりそこはドケチの好美、しっかりとしている。しかし好美はただそれ以上のドケチ力を発揮した。
好美(念話)「ねぇ、全部買うんだからもっと安くなんない?」
ケデール(念話)「今でも原価ギリだよ、勘弁してよ。」
経営者同士で負ける訳には行かない戦いがそこにあった、好美はライカンスロープをけしかけてみる事に。
好美(念話)「良いの?馬の事バラすよ?丁度今、奥さんと一緒にヤンチさんの店に来ているんだけど。」
勿論、嘘だ。
ケデール(念話)「兄貴にも言うのか?!勘弁してよ・・・。」
好美(念話)「確かケデールさん、この前ボートでも大負けしてたよね?」
どうやら肉屋兼八百屋の店主はかなりのギャンブラーの様だ。
ケデール(念話)「分かったよ、好美ちゃんには勝てないな・・・。」
好美(念話)「やったー、じゃあ今の7掛けで宜しく!!」
ケデール(念話)「げっ!!」
店主曰く、好美が提示した値段が原価ピッタリだったのでケデールは愕然としていた。
ケデール「守、お前今日休んで良いぞ。店閉めるわ・・・。」
狼男、完敗。