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バルファイ王国には本当に何もないのだろうか・・・。
-147 牛丼屋や高層ビル以外に何があるのだろうか-
ただひたすらに「透け家」で買った牛丼弁当にかぶりつく好美の横でアクセルとクラッチ、そしてギアの操作を繰り返していた守には疑問に思っていた事があった。
守「今更なんだけど・・・、俺達がこうやって2人で旅行に行っている事を誰にも言わなくても良かったのかよ。俺の事は良いとして、流石に好美の事を心配している人はいるはずだぞ。」
両親である操と瑠璃がこの世界にいる訳では無かったが、ネフェテルサ王国で好美の事を温かく見守っていた者が沢山いたのは真実なので守が聞きたくなるのも無理は無い。その上、大家やオーナーである好美無しでマンションや「暴徒の鱗ビル下店」の経営が上手くいくとは思えない。王城の夜勤は有給で休んでいるから良いとしても流石に他は一言で大丈夫とは言い切れない。
好美「大丈夫だよ、誰にも頼らずに自分達だけでゆっくりとした時間を過ごしたかったから敢えて2人きりでの行き当たりばったりの旅行に行こうって決めたんだから。」
守「おいおい、「誰にも頼らずに」って今言ったけど内緒で出掛けた時点で他の人に色々と頼っている気がするのは俺だけか?そりゃ、マンションは不動産会社に預けているだろうし拉麵屋には店長と副店長にナイトマネージャーまでいるから問題ないかも知れないけど皆心配するんじゃ無いのか?」
好美「だから敢えて内緒にしているんだよ、言ったら言ったで皆が何言いだすか分からないんだもん。」
守「だからって・・・、無断で全業務を他の人に押し付けるような事して良いとは思えないんだが・・・。」
守の核心をつく一言に少し焦りの表情を見せる好美、ただ一応は連絡をしていた様なのだが・・・。
好美「ちゃ・・・、ちゃんとメモを残しておいたんだもん・・・。」
確かに好美は嘘を言っていなかった、いつの間にそうしたのかは知らないが念の為に「暴徒の鱗」の調理場の奥にある事務所(にしている小部屋)に「卒業旅行に行って来ます」と書置きを残していたらしい。ただ「守(男)と」と書いては無かった上にその日は風が強かったらしく、換気の為に窓が開いていたのでその書置き自体が飛んで行ってしまっていたので誰も気づかなかった様だ。
守「まぁ、お前がそう言うなら良いのかも知れないけど。」
ネフェテルサ王国でそれなりに実力を持つ好美が言うのだから心配は無いかと一応安心していた守の運転するカペンは未だにバルファイ王国の国道を走っていた、暫くすると様々な大きさのトラックが並んでいる建物の前を通りかかった。どうやらここが美麗の新しい職場である「貝塚運送」の様だ、しかし今日は週休なので本人の姿は無かった為に素通りする事にした。
守「この辺りって本当に高層ビルばっかりなのかな、何処かゆっくりと観光して過ごせそうな場所があったら良いんだけど。」
一言呟きながら運転する守の目にとある標識が見えて来た、どうやら高層ビル以外に何もなかった訳では無かったらしい。
守「好美・・・、「バルファイ植物楽園」ってのがあるけど行ってみるか?」
好美「何それ、初耳なんだけど・・・。」
確か中学の頃に修学旅行で行った沖縄にそんな感じの場所があったなと思っていた俺を横目に、バルファイ王国にそういった自然豊かな場所があるイメージが無かった好美は守が指差した標識を確認した。たまには植物に囲まれて過ごしてみるのも良いかなと思ったので一先ず行ってみるかと恋人に提案して弁当に戻る、守にとって予想通りの行動を取った好美。
守「それにしてもお前・・・、いつまで食うつもりだよ。」
好美「折角買ったんだから温かい内に食べたいじゃん・・・。」
守「だからって・・・。」
未だに無くなる事を知らない持ち帰り用の弁当の山を見てドン引きする守は、頭を掻きながら脇道へと逸れてなだらかな上り坂をゆっくりと登って行った。勿論、好美がマイペースで食事を楽しめる様にと気遣ったが故だろう。
決して多くは無かったが数台ほどの車が止まっている場所が見えて来たので、まだまだ牛丼を口いっぱいに頬張っていた好美は右手で割り箸を握りながら指差していた。
好美「ねぇ、あれじゃない?駐車場っぽい場所が見えて来たよ。」
癒しを求める2人にとって丁度いい場所だったら良いのだが・・・。