144
2人は存分に食事を楽しんだ・・・、はずだった・・・。
-144 牛丼屋と言えば?-
好美の言葉に普段以上の棘を感じながら大好きな味に舌鼓を打っていた守達のテーブルに店員がお盆を持ってやって来た、好美が空けた牛丼の器を下げに来たのだろうかと思っていたのだが両手に持つお盆にはまさかの新たな丼が乗っていた。勿論(と言っても良いのかは分からないが)、守には注文した記憶は無い。
店員「お待たせ致しました、「炙り鶏もも肉の親子丼・特大」になります。」
守「いや、俺た・・・。」
守が店員に断りを入れようとした次の瞬間、本人にとって人生で最もアンビリーバブルな光景の1つが飛び込んできた。そう、好美が今までに無い位真っ直ぐに手を高らかに挙げていたのだ。
好美「私です、ありがとうございます。」
守「お前、いつの間に頼んでいたんだよ・・・。」
好美「守がトイレに行ってた間によ、第一守は車の中で水分摂り過ぎなのよ。」
丁度ランチタイムのこの時間帯でこの日一番の強さを誇っていた日差しの下でずっと運転していた守は所々で水分補給をしていた(水分は人間にとって大切だからね)、と言うかオープンカーにして走っていたらこう言う事にならなかったんじゃないのか?
好美「紫外線はお肌の敵なのよ、私の玉の様な肌に傷を付けるつもり?」
おいおい、お前のは「玉」は「玉」でもパチンコ玉じゃねぇのか?
好美「どんな肌よ、想像したくないのは私だけ?」
守「えっと・・・、「眩しく光る」って言う意味じゃないのか?」
そ・・・、そう・・・。光の反射で辺りを明るく照らすような綺麗なお肌という意味ですよ(守、ナイスフォローだ)。
好美「そんな事言って「4円で買える安っぽい肌」なんて言わないでよね。」
そんな事言う訳無いじゃないですか、人の肌に価値を付ける権利は誰にもありませんって(特に俺みたいなダメ人間には)・・・。
好美「まぁ、別に気にして無いけど。」
守「それより早く食わないと折角の親子丼が冷めちまうぞ。」
好美「本当だ、出来立ての内に食べなきゃ。」
ただ好美はお盆に載せられた匙を手に取る訳では無かった、懐からスマホを取り出して写メを撮り始めたのだ。実は牛丼屋で親子丼を食べるのが初めてだったので記念にしたかった様だ、たださっき「腹八分目」って言ってたのは誰なんだよ。
好美「まだ2割しか食べて無いもん、それにしても美味しそうだな・・・。頂きます!!」
好美の表情はまるで本日1食目の食事を摂る直前の様だった、とても嬉しそうに両手を合わせて食材などに対するに対する感謝を告げていた。
好美「本当に鶏肉が炙り焼になってる・・・、美味しそう・・・。」
好美は目をキラキラと輝かせながら1口分を匙で掬ってから少しの間眺めた後で口を大きく開けて食べていた、まるで牛・豚より鶏派だと言わんばかりに。
好美「あれ?言ってなかったっけ?」
はい、全然存じ上げておりませんでした。それより好美さん、彼氏さんがずっとお品書きと睨めっこしていますけど・・・。
好美「どうしたの?何か納得いってない様な顔しちゃって・・・。」
守「いや、単純に俺も牛丼屋で親子丼を食った事が無かったから美味いのかな・・・、って思ってさ。」
お品書きには「当店を直営する牧場で放し飼いによる飼育を施し、可能な限り自由でストレスを削減させた状態で育てた鶏のもも肉と目玉焼きを載せた当店流の親子丼です」と記載されていた、何とも魅力的な口説き文句に満腹なはずの守の口から涎が・・・。
守「なぁ、好美・・・。俺にも1口・・・。」
だが時既に遅し、いつの間にか親子丼は好美の胃袋に納まってしまっていた・・・。
流石に満腹です・・・、よね?