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お前ら、いい加減に行かんかい・・・。
-141 無知の知-
改まった様子で再びクリスタルに魔力を流し込んだ守は、深呼吸した後にクラッチを踏み込んでギアを「2」に入れた。カペンにも持ち主の落ち着きが伝わったのか、ゆったりと走り出したので守はそのまま旅館の駐車場の出入口を目指した。
ルイズ「いよいよね、楽しんでらっしゃい。」
気の利いた台詞を言ったエルフの女将に対して、何故か頬を膨らませる好美。
好美「何よ、さっきは早く追い出そうとした癖に心にもない事を言わないでよ。やっと叶った2人での旅行なのに雨を降らせる気?」
守「やめろよ、好美。折角お見送りして下さっているんだから素直に出れば良いじゃないか。女将さん、ごめんなさい。」
ルイズ「良いのよ、昔から変わっていない事だから気にしてないわ。それと私の事は「ルイズ」って呼んで頂戴、何なら「ルイズお姉たま」でも良いわよ。」
何となくだが一言余計だと思われるルイズを横目にまた車を走らせ始めた守は市街地の道を通ってバルファイ王国(お風呂山経由)の方向へと向かった。この世界でカペンに乗るのは初めてだった為、2人が乗っていた事にネフェテルサ王国の住民は誰も気づかなかった様だ。
そんな中、先程2人を騒がせた「あの声」が持ち主に質問して来た、どうやら個人(?)的に気になっている事があったらしい。
カペン「そう言えば、えんらい山を登って行ってますけど今から何処に行くんでっか?」
守「うん、分かんない。」
目的地なんて分かる訳が無かろう、全くもって決めて無いんだから。本当に行き当たりばったりの旅になりそうな模様だ。
2人を乗せた車はお風呂山の頂上から反対側を降りてバルファイ王国へと到着した、光がこの世界に来たばかりの頃に住民達やレースのドライバー達を悩ませていた砂漠地帯はほぼ完全にアスファルトで舗装され、高速道路や国道のバイパスと言った広めの道路が縦横無尽に張り巡らされて毎日多くの車が行き来していた。はっきり言ってネフェテルサ王国と違って車無しでは生活できない様になっていたのだ。ただ住民達は便利な道路が出来て大変大喜びしており、これもパルライの重要な政策の1つだったという、それにしてもあいつって拉麵屋だけじゃなくて他の仕事もしっかりしてたんだな。
好美「何よあんた、いくら作者でも失礼じゃないのよ。ああ見えてもパルライさんは一応国王様なんだからね。」
おいおい、「一応」ってのも何となく失礼な気がするぞ。『察知』されてなくて良かったな全く・・・。
好美「だって王様に見えないんだもん、何処からどう見ても「ただの」拉麵屋の店主じゃない、ねぇ、守?」
守「ハハ・・・、ハハハ・・・。」
「自分に話を振るな」と言わんばかりの愛想笑いを見せる守、好美が言っていた事は紛れもない真実なので否定のしようもない。守君、お気持ちお察しします。
好美「2人共どういうつもりよ、私間違った事言ってる?」
何を仰いますか、パルライさんとご一緒に「暴徒の鱗」を経営されておられる好美さんの事を誰が否定すると言うんですか。
好美「分かれば良いのよ、それで?何処に向かっている訳?」
守「一応適当に走らせているんだけど、何処か希望はあったりする?」
好美「希望ねぇ・・・、困ったなぁ・・・。」
好美が困るのも無理は無い、この世界には観光地というものが未だに存在しないのだ。皆忙しくしているが故に、そんな事気にする余裕も無かったのだろう。
時計の針が12:30を指し示し、好美が頭を悩ませる中、2人を乗せたカペンは多数のビル群が連なる貝塚学園(兼貝塚財閥本社)の前に到着した。お分かりの方もいると思うが、ランチタイムなので結愛達はこの場にいない(と言うより外回りが多いので殆ど本社に戻らない方が多い)。
好美「大きいね・・・、ここが結愛達の会社?」
守「こりゃ会社と言うより1つの街だな、建築費用がとんでもなさそうだ・・・。」
それもそのはず、ネフェテルサ王国で最も高いビルと言われる好美所有のマンションと同等の高さを誇るビルが何棟も建っているから驚くのも無理は無い。
結愛って実は偉人だったのね・・・。




