134
時間を忘れて愛を語り合っていた恋人達・・・。
-134 時間はある?それとも無い?-
館内放送で「閉館30分前」が知らされたのでずっとキスをしていた2人は浴槽から出て浴衣を着た後にロビーの自販機で瓶入りのコーヒー牛乳を飲んでいた、どうやら熱い風呂に入った後に冷えた牛乳が好まれるのはこの世界でも変わらない様だ。と言うかあんたらずっとキスしとったな、お熱い様で。
好美「何ぇ、光さんはすぐに行ったのにあんたはずっと見てたんけ?趣味悪ぅないで?」
しゃあないじゃろ、見とうなくても話の進行の為には見ざるを得なかったんじゃ。ただあんたらの事じゃけんてっきりビールを買うんかと思ったけど、さっきまで呑んだけん牛乳にしたんぇ?と言うかあんたらお熱いのはええけんどずっと入っとったんけ、のぼせても知らんじぇ。
好美「余計なお世話じゃわ、我がら2人共長風呂が好きやけんええの。」
守「おい好美、何語喋ってんだよ・・・。」
好美「ごめんごめん、いつもの「アイツ」が阿波弁で話しかけて来たからつい・・・。」
登場人物に「アイツ」と呼ばれる俺(作者)って一体・・・、まぁそれは良いとしてどうだ、こっちの世界の牛乳は美味いか?ラベルを見た感じはダンラルタ王国にあるバラライ牧場の物みたいだが。
好美「そうだね・・・、日本と変わらないかな。何となく懐かしくて嬉しいけど。」
守「あれ?日本にいた時、俺達一緒に温泉なんて来た事があったか?」
好美「いや、そういう訳じゃ無くて徳島にいた頃によく飲んでいた牛乳に後味が似てたから。それと守がバイトで会えない時、よく桃や美麗達と入りに行ってたのよ。誰だって癒しが欲しい時ってあるでしょ、それに・・・。」
守「それに・・・?」
顔をポカンとさせる守をよそに、懐から1枚の紙切れを取り出した好美。そこには「守と再会出来たらやりたい事リスト」と書かれていた、表面上では守の転生(いや多分転移)を拒否している様に見せかけていたが心中ではこの世界での再会を望んでいたらしい。よく見るとリスト内には「一緒に思い出の味を楽しむ」や「混浴風呂に入る」、そしてまさかの「出逢ったばかりの頃の様なキスを交わす」とあった。おいおい守、羨ましいじゃねぇかよ、さっきのキスの味はどうだったんだよ、え?
守「大学で初めて交わした時みたいに・・・、甘かった。」
恥ずかしそうに答える守の横で顔を赤らめながら学生時代を思い出した好美、2人の表情には何処か初々しさがあった様な無かった様な・・・。
好美「確か私の「初めて」を奪った時もそう言ってたよね、あの時教室で同じ種類のボールペンが同時に落ちたのって本当は運命(いや必然)だったのかも。」
守「何言ってんだよ、俺なんて浜谷のおっちゃん達が経営してたマンションの前で好美の事を初めて見た時から運命を感じてたんだぞ。」
好美「「浜谷のおっちゃん達」・・・?」
聞き慣れない名前だったが必死に何かを思い出そうとした好美。
好美「もしかして私が住んでた「ニューハマタニ」の?」
守「そう、もしかしたら「最悪の高校時代」におっちゃん達が俺達の元からいなくなって結愛や光明と一緒に義弘を潰した事は今思えばこうやって好美に出会う為の布石だったのかも知れないなってなっちゃってさ・・・。」
好美「ねぇ、皆の言う「最悪の高校時代」って何?」
好美は大学進学をきっかけに守達のいた街に来たので、元の世界の貝塚学園高校(元西野町高校)で起こった事件の全容を知らない。
守「話せば長くなるぞ、良いのか?」
少し躊躇いながら質問した守。
好美「大丈夫、時間ならたっぷりあるって。」
いや好美さん、それがもう時間無いんですよ。番頭さんが近づいて来てますけど。
番頭「お客様恐れ入りますがもう閉館のお時間なんです、あと浴衣をお返し頂けませんか?」
すっかり時を忘れてしまっていた2人、そんな中好美は先程のリストを取り出してある文字を指差しながら笑った。守が覗いてみると「守と大学の卒業旅行をする」とあった。
そう、好美が本当にしたかったのは元の世界で叶わなかった卒業旅行に行く事だった。
そう言えば俺も行ってなかったな・・・。