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突然の頼みを聞いてくれた優しい店主・・・。
-131 母だからが故に、そして男女だからが故に-
恋人達が筆頭株主による懐かしい味での食事を楽しんでいる間、真希子は使用していた私物である寸胴を『アイテムボックス』に入れながら隣で皿洗いをしていた店主に感謝していた。
真希子「突然すまないね、営業中だったのに無理なお願いして。」
店主「構いませんよ、真希子さんに逆らえる人間なんてあまり見た事ないですからね。」
真希子「あらま、人間でも無いのに言ってくれるじゃないか。」
店主「あれ?バレてました?」
真希子「そりゃそうさね、私には何でもお見通しだよ。」
こう言いながら真希子は店主の右手を手差しした、気持ちがほぐれていたのか『人化』が解けかけていたので元々の姿が露わになっていた。どうやら店主は出稼ぎにきたプラチナドラゴンの様だ。
店主「おっと、まだ店を閉める訳にはいかないのにまずいな。」
慌てて『人化』で両手を元に戻した店主は改めて皿洗いに戻った、先程までピークタイムだった様でシンクには食器が山積みとなっていた。
店主「あの・・・、真希子さん。1つお聞きしても宜しいでしょうか。」
真希子「何だい、私とあんたの仲じゃないか。何でもお聞きよ。」
数年程前からこの店に通い詰める真希子はすっかり顔馴染の常連となっていた、店に来る度に結構な量を注文するので店主も顔を覚えていたのだ。
店主「真希子さんは・・・、どうして2人が当店に来るって分かったんですか?」
この世界でなら普通は『察知』を使用したと言いたい場面ではあるが、真希子は別の理由で踏ん反りがえりたかった様だ。
真希子「そりゃああそこにいるのは私の息子だよ、母なら何でもお見通しって奴さ。」
そうは言っているがこの食事を提案したのは好美だったはず、まぁ気にしないでおくか。
店主「そう言えば寸胴の中に残ったお料理はどうされるんです?」
運がよければ自分もお相伴に預かる事が出来ると踏んでいた店主。
真希子「家に持って帰って食べるつもりだよ、今から弟子が来るんだよ。」
店主「お弟子さんって拉麵屋のピューアさんですよね、あの人の寿司も美味かったのを覚えていますよ。」
真希子「あの子に料理を教えたのは私だよ、あの子は自慢の弟子さね。じゃあね、今日はありがとうね。」
そう言うと『瞬間移動』で家に帰ってしまった、その数分後に厨房の外から守が声をかけてきた。
守「母ちゃん?あれ?お代わりを貰おうとしたんだけどな。」
店主「真希子さんなら今お帰りになりましたよ、きっとお2人に気を遣われたんでしょう。」
守「そうですか、それにしても母が無理を言ってすみませんでした。」
店主「構いませんよ、今度は当店の料理も食べて見て下さいね。」
笑顔の店主に見送られて店を後にした恋人達は街の中心部に向かってゆっくりと歩いて行った、涼し気な夜風が2人の気持ちを落ち着かせていた。
好美「ねぇ、守。今から行きたいところがあるんだけど。」
守「今更何を言われても断れないだろ、何処へ行くつもりだ?」
好美「フフフ・・・、内緒。」
好美は笑顔で守の腕を引いて目的地へと導いていった、着いた先はまさかのお風呂山にある銭湯だった。露天にでも入りたくなったのだろうか。
好美「ねぇ、久々に一緒に入らない?」
守「おいおい、言えでも別々なのに冗談でもそんな事言っちゃだめだろう。」
恥ずかしくなって顔を赤らめる守を横目に、好美はあるポスターを指差した。
好美「ほら、あそこ見てみてよ。」
守「何々・・・、数日前に混浴露天風呂が出来たのか。こりゃびっくりだ。」
頼むから、それなりの対策はしてくれよ。