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守は自分の無知に気づくのだった
-⑬ 異世界を実感する-
ジューヌの店で鮭の切り身を購入した守は、家に戻ろうとしたがエレベーターに乗った瞬間に顔を蒼白させた。そう、好美の家に行くための「15階」のボタンが無かったのだ。初めて家に来た時は好美の『瞬間移動』での移動だったのでどうすれば良いのかをちゃんと聞けていなかった。
守「俺・・・、『瞬間移動』出来たっけ・・・。」
エレベーターの中心で1人焦りの表情を見せる守の事を『察知』したのか、とても優秀な(?)恋人から『念話』が飛んで来た。
好美(念話)「何よ、私がもう既に『瞬間移動』を『付与』したから早く来なさいよ。早くしないと、もう好美ちゃんのビールが無くなりかけてますよー!!」
守より先に転生してから結構な年月が経過してるが故か、やはりスキルの仕様に関してはもうお手の物と言えるだろう。最低でもマンションのエレベーターの中で1人オドオドしている野郎よりは。
好美「何よ、その言い方!!守は何も悪くないもん!!」
あ・・・、すいません・・・。おかしいな、また俺の声聞こえてたのかよ・・・。
取り敢えず気を取り直して守はどうしているのかなー・・・、って、まだおるんかい!!
守「悪かったな!!やった事無いんだよ、『瞬間移動』なんてよ!!元の世界でする事無いだろうがよ!!と言うかお前誰だよ!!」
嘘だろ、守にも聞こえてたのかよ・・・。まさか長編1作目からの(一応)主人公とここで会話をするとは、流石何でもありの世界だな。俺の事は良いから早く好美に『念話』を飛ばせよ。
守「そうだな、誰か分からんけどありがとうよ。(念話)ごめん好美、『付与』してくれたのは良いけどどうやって使うの?」
好美(念話)「行きたい場所を念じれば良いだけよ、「私の家のリビング」って念じてみ。良い?「リビング」よ!!「リビング」だからね!!」
何故好美が「リビング」と連呼しているのだろうかが分からなかった守は「これはフリか?」と思い、好美の家の別の場所を念じて『瞬間移動』した。
好美「きゃああああああああああ!!何やってんの、馬鹿!!」
守「す・・・、すみません!!」
どうやら守にとって初めての『瞬間移動』はある意味失敗、そしてある意味成功に終わったらしい。
守「好美・・・、あの頃から変わって無かったな・・・。」
守は1人リビングで鼻血を垂らしてティッシュを探した。
好美「もう・・・、「リビング」って何度も言ったじゃない!!」
守「いやぁ・・・、「フリ」と思って敢えて別の場所に飛んでみたんだけど。」
好美「まぁ、色んな意味で守らしいっちゃ守らしいけど。」
未だに学生の様なノリが好きな所なのか、それとも変態の部分なのか。もしくはその両方か、知っているのは好美だけで良いだろう。
好美「ねぇ、ビール買って来てくれた?」
知らぬ間に素面に戻っている恋人。
守「ああ・・・、渡された軍資金分は買ってきたよ。」
守がビールの入った袋を手渡すと、すっかり空になった冷蔵庫に入れ込んでいく。ただ守には違和感があった、買ったばかりのはずの鮭の切り身が無くなってしまっている。
好美「あれ?肴と思って食べちゃったけど。」
誰もが「いつの間に?」と聞きたくなったが守にとっては別の問題の方が重要だった。
守「あれは朝飯だぞ!!しかも2切れ共食ったのか?!」
好美「塩気が丁度良くてさ、思わず呑んじゃった、エヘッ!!」
これが本当の「朝飯前」