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緊張しながら改めて挨拶を試みるパティシエ。
-119 菓子職人と副店長の共通の知人-
自分が取った行動により初めて会ったばかりで挨拶も出来ていない店の副店長が取ろうとしていたとんでもない行動を必死に制止したピクシーは、改めてシェフ帽を脱いでオーナーシェフ達に自己紹介すべきだと一歩前へ出る事にした。
オラ「宝田副店長、申し遅れました。数日前にこの店のパティシエとして雇用されたシルフのオラ・マイヤーと申します。まだ試用期間のひよっ子ですが、宜しくお願い申し上げます。」
あらまぁ、これはご丁寧な事。ただピクシーではなくシルフだったのね、失礼しました。
オラ「そうですよ、誰が自分の事をピクシーだって言ったんですか。」
ホルのお姉さんとお伺いいたしましたのでつい・・・、大変失礼致しました。
オラ「まぁ・・・、大差がある訳ではないですからね。気にしないで下さい。」
あら、俺の事を気遣ってくれる人がいたとはね。こんなに嬉しい事は初めてですよ。
真希子「オラちゃんだっけ?茶々を入れて来るだけの奴は置いといて、取り敢えず貴女について聞いても良いかい?」
オラ「勿論です、私に答えることが出来る範囲なら何でも聞いて下さい。」
真希子はナルリスにオラの履歴書を借りて目を通し始めた、まさか改めて面接でもするつもりなんだろうか。
ナルリス「真希子さん、もう採用にしちゃったんですが何が不安なんですか?」
真希子「いや、個人的に聞きたい事があったんだよ。勿論、採用を取り消すなんて事はしない(と言うか出来ない)から安心しておくれ。」
ナルリス「個人的に・・・、ですか・・・。」
空いた口が塞がらないオーナーシェフの横で履歴書を見ながらオラの作ったスイーツを一口食べた真希子、何を聞こうとしているのだろうか。
真希子「うん・・・、うん・・・、この味・・・。履歴書にも書いてある通りだね、ナル君、この子大物になるよ。」
ナルリス「えっ?!どう言う事ですか?!」
目を丸くさせるナルリスをよそに、改めてオラの目を見て質問する真希子。
真希子「オラちゃん、ヘルクは元気かい?」
オラ「えっ?!どうして師匠の名前を?!」
真希子「あんたの作ったこのスイーツに使われているカスタードクリーム、これはヘルクが独自開発した物のはずだ。あの子はカスタードクリームを作る際にバニラビーンズを多めに入れるからね、口に残る風味の強さが特徴的なんだよ。」
ピク・・・、いやシルフが作ったとても小さなスイーツにごく少量だけ使われたカスタードクリームの味だけでオラの師匠の名前を当ててしまった真希子は侮れない人物の様だ。
真希子「まさかと思ってあんたの履歴書を確認させて貰ったけど、あの子がダンラルタ王国に出した店の名前が書かれていたからまさかと思ってね。別にオラちゃんの事を疑っていた訳じゃ無いから許しておくれ。それにしてもヘル、あんたも優秀な弟子を育てる様になったもんだから私も鼻が高いよ。そこにいるんだろ、恥ずかしいからって端から弟子の様子をずっと見ているのはやめにしていい加減出てきたらどうなんだい?」
そこにいる全員が唖然としていた、皆が楽しく過ごしているホールや客席からほぼ丸見えになっている厨房以外にはもう誰もいないと思い込んでいたからだ。
守「母ちゃん、誰がいるってんだよ。ナルリスさんだって今日この場にいるメンバーは全員把握しているはずだろ、その本人が知らないなんて事があるの・・・、か・・・?」
守がふと目線を向けた先でナルリスは目を丸くしてポカンとしていた、どうやら真希子にしか分からない範囲での話が始まっている様だ。
真希子「誰って・・・、あそこにいるじゃないか。ヘル、あんたも意地悪しないで姿を現わしたらどうなんだい。恥ずかしいからって姿を現わさないのは以前からの悪い癖だって私が何度言ったら分かるんだい、いい加減にしな!!」
オラ「え?!師匠が来ているんですか?!確定申告に行くって聞きましたけど!!」
真希子「あの子が真面目に確定申告なんて行く訳がないだろ、また嘘に決まっているよ。」
守「おいおい・・・、どんだけ信用されてないんだよ・・・。」
師匠の正体とは・・・。