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母は強し。
-117 笑顔を呼ぶ甘味とレストランの裏側-
危うく修羅場になりかけたその場を治めたのはやはり真希子だった、もう守1人の母親ではなく転生者全員の母親役を担っていると言っても過言では無い。
真希子「こらこら、あんた達はこんな所で何を始めようとしているんだい。あんたらの言い争いは好美ちゃんの部屋で終わったんだろう、ここではもうやめないか。」
守が好美の自室に引っ越して来た時から、実は2人の様子をずっと『察知』していた真希子。やはり母親としては1人息子の事が心配なのだろう。
好美「いや・・・、だって・・・。」
真希子「「だって」じゃないの、2人共互いの事を理解し合った上で同棲を始めたんじゃないのかい?それじゃ好美ちゃんが死ぬ直前みたいじゃないか、守ももうあんな思いはしたくないだろう。分かったら「ごめんなさい」しなさい!!」
この世の中「喧嘩するほど仲が良い」とは言うが、この世界でもやはり男女の間での確執や喧嘩は後を絶たないのかも知れない。ただいくら自分の1人息子でも、喧嘩の仲介の方法が少し(?)幼稚に思えるのは俺だけだろうか。
真希子「うるさいね、僕ちゃんは黙っていなさい!!」
おいおいちょっと待ちぃや、確かにあんたのモデルにはいつも「僕ちゃん」って呼ばれとるけどあんたもなんけ?
真希子「良いじゃないか、それとも「お嬢ちゃん」って呼ばれたいかい?」
す・・・、すみません・・・。お願いですから今のは無かったことにして下さい・・・。
真希子「素直で宜しい、「仲良くしようじゃないか」。」
正直今真希子が言った「仲良くしようじゃないか」という言葉に、俺は個人的に少し恐怖を覚えていた。まぁ・・・、それは良いとして。
母のお陰で事なきを得た守は再び目の前のスイーツに戻る事にした、先程まで不機嫌そうにしていた好美もスイーツを食べて満面の笑みを浮かべていたのでホッとしていた。
ただそんな中で守には1つだけ不可解な事が有った、奥でスイーツを作っているはずのプルはホール(いや客席)にいると言うのに何故かどんどんとお代わりが追加されていたのだ。ただ新しく出て来たスイーツが全体的に小さい(と言うより小さすぎる)のも不思議で仕方が無かったが食べやすさを重視したんだろうなとあまり深く考えなかった、そのお陰で多くの種類の甘味を楽しめているので結果オーライという事にした。
守「母ちゃん、プルが作った物も美味かったけどこのスイーツも美味いね。パティシエでも雇ったの?」
やはり以前までドルチェを全く出していなかったが故に気になって仕方が無かった守は、副店長である母に質問した。
真希子「確か・・・、ナル君がこの前雇った女の子が今試用期間で働いているって聞いたんだけどその子かな・・・。」
守「いや母ちゃん、副店長なのに何で知らないんだよ。」
真希子「休みとかの関連で会ったことが無かったのさ、だって雇ってからまだ1週間も経って無いんだよ。そろそろ私の下に連れて来てくれても良いんだけどね。」
守「おいおい、この際ハッキリ聞くけどこの店での母ちゃんのポジションって何なんだよ。」
確かに俺も気になる、正直ナルリスと真希子のどちらが上の人間なのだろうか。
真希子「私はただの副店長だよ、今更何を言わせんだい。」
いや、どう考えてもあんたの方が偉そうに見えるんだが。
ただ俺や守の疑問は厨房から出て来たオーナーシェフによりあっさりと解決した、真希子絡みなら十分あり得る理由だった。
ナルリス「ここだけの話なんだが実は真希子さんが副店長になってから数年後に貝塚財閥の傘下に入ったんで真希子さんには頭が上がらないんだよ、ただその方が食材の流通ルートの確保がしやすいって分かったんでね、好美ちゃんが教えてくれたお陰なんだよ。」
好美がビルを買い取ってすぐの頃、下層部分を貝塚学園の寮にする契約を交わした際に食材の流通ルートについて結愛にも色々とアドバイスや手助けを貰っていた様だ。
真希子「それは良いとして・・・、ナル君、例の新人は何処にいるんだい?」
ナルリス「あの・・・、目の前にいますけど・・・。」
え、どゆ事?