115
結愛は何をするつもりなんだろうか。
-115 女として、男として-
結愛はチラホラと辺りを見廻した後、とある方向を指差した。その先には少し古びたピアノが一台。
真希子「構わないよ。ナル君、すまないけど有線を切ってくれるかい?」
ナルリス「は・・・、はーい・・・。」
正直オーナーシェフと副店長のどっちが上か分からない。
結愛「お・・・、おば様・・・!!」
真希子「良いでしょ、皆で祝おうじゃないか。」
結愛は真希子に背中を押されてピアノへと向かった後、弾き語りを始めた。
光明「これ・・・。」
妻が弾き始めたのは20年程前に沖縄から出て来た有名なバンドが歌い、数多くのアーティストがカヴァーした有名なラヴソングだった。因みに、光明が一番好きな曲でもある(大人の事情でこれ以上は言えません)。
と言うか結愛、お前ってピアノ出来たんだな。
結愛「うっせぇ、いらん事言うんじゃねぇ!!ガキん時に義弘に習わされてたんだよ。」
おいおい、折角「女らしさ」のアピールになってたのにその台詞で台無しになっている気がするのは俺だけか?
光明「やべぇ・・・、惚れ直したかも・・・。」
あ・・・、そんな事も無かったか。それなら良かったんだがな。
それより光明、お前は何も用意してないのかよ。レストラン中が良い雰囲気になっている内に何かアクションを起こした方が良いんじゃないのか?
光明「どうしよ・・・、どうやって返せば良いか分かんねぇよ。」
ま・・・、まさか・・・。本当に何も用意していないのか?
光明「だってよ・・・、忙しすぎて会社から直接ここに来たんだぞ。用意する余裕なんてある訳無いだろうが。」
そんなの理由じゃなくてただの言い訳にしかならんぞ、今からでも良いから何か考えろ。
光明「何も持って無いとは言ってねぇだろ、実はある事はあるんだが・・・。」
何だよ、だったら潔く出したら良いじゃんかよ。それとも誰かに背中を押されなきゃ出せない物なんか?
真希子「光明君、あんたも男だったらどんと構えてやってみたら良いじゃないか。」
光明「わ・・・、分かりました・・・。」
やはり真希子には逆らえない光明、ただその時の真希子は筆頭株主ではなく優しい母親の様な表情をしていた。まぁ、守のいる所で言って良いのか分からんが夫婦にとって母親同然の存在と言っても過言では無いから問題ないか。
守「おい!!大問題だよ!!」
気にすんな、気持ちの問題だって。お前も忘れていないだろ、真希子が株主総会で出席していた全ての株主を説得していた時の背中をよ。
守「そりゃ覚えているさ、あの時の母ちゃんは格好良かったもん。」
ほら見てみろよ、そんな事言っている内に光明が結愛の前に跪いて・・・、って何するつもりじゃ!!ん・・・?胸ポケットから何か取り出したぞ?
結愛「な・・・、何だよ・・・。皆が見ているだろうが。」
光明「結愛・・・、結婚してからずっと仕事ばかりの日々が続いて未だに後悔している事が有る。役場に書類を提出して戸籍上は夫婦だがちゃんとこう言う事をしたかった、まさか死んだ後に異世界で渡す事になると思わなかったけど受け取ってくれるか?」
結愛「お前・・・、それ結婚指輪か?」
深く頷いた光明は、妻の左手の薬指に箱から出した指輪をゆっくりとはめた。
実は結愛もずっと待ち続けた瞬間だった。




