109
結愛は何を言おうとしているのか。
-109 結愛の方針・提案-
結愛は美麗のこの世界での勤務先になる貝塚運送についての方針を一応決めていた様だ、社長の一存で決めて良い事だと思われるが美麗本人にちゃんと伝えておこうと思っていた。
結愛「実はなんだけどよ・・・、美麗にはドライバーとして働いてもらう予定ではあるけど主任になってもらう計画なんだが構わねぇか?」
美麗「えっ?!今何て?!」
社長の突然の提案に持っていたスプーンを落としてしまった美麗、中には熱々のテールスープが・・・。
秀斗「あっちい!!」
驚愕した恋人による被害を受けた秀斗、小籠包でも無い上にたったスプーン1杯分なのに大袈裟ではなかろうか。ただその光景を見て、社長は声高らかに笑っていた。
結愛「お前ら仲良くて羨ましいな、俺なんて光明と久しく飯なんて行ってねぇぞ。」
家でもずっと仕事の話題で持ちきりの為、ちゃんとした2人の時間を取れていないのが現状の様だ。大企業の代表取締役社長と副社長だから仕方ない事なのだろうが・・・、何か・・・、可哀想・・・。
結愛「お前やめろよ、似合わねぇ事言ってんじゃねぇよ。」
顔を赤らめながら持っていたビールを一気に煽った結愛は改めて美麗に今回の提案について聞き直す事にした、どんな事でも対象となる人物の了承を得てからというのが社長のやり方らしい。
結愛「どうだ?引き受けてくれるか?頼む、この通りだ。」
読者モデルとして、そして元の世界で有名だった大企業の社長である結愛が自分に頭を下げてお願いして来ている。美麗はこの事が本人にとって大きな意味を持っている様な気がしてならなかった。
美麗「結愛の気持ちは嬉しいよ、でも本当に私で良いの?」
未だに自分が相応しい人間かどうか悩んでしまっている美麗、その隣に座っている秀斗は不安で不安で仕方が無い事を本人の表情から読み取っていた。本当にこれで良いのかは分からなかったが、秀斗は自分なりに美麗の背中を押す事にした。
秀斗「やってみなよ、結愛直々の推薦なんだろ?」
美麗「軽く言わないでよ、入社してすぐに管理職だなんて・・・。」
人の上に立つというのはやはり責任を問われる事だ、いくら結愛に言われたからって軽い気持ちでは受けたくない。
美麗「ねぇ、どうして私なんかを主任に推してくれたの?」
結愛はもう一度ビールを煽ると、ゆっくりとグラスをテーブルに置いて一言。
結愛「勘だよ、長年社長をしているから何となくで分かるんだよ。」
実は貝塚財閥関係の人事は結愛が自ら配置を決める事が多い、それが故に培った物が大きいので分かる事なんだろう。ただし、美麗はまだ信用していないらしい。
美麗「嘘言わないでよ、本当は別にそれなりの理由があるんじゃないの?」
確かに「勘」という言葉だけで片付けても良い話ではない、どうやら美麗は結愛の嘘を見抜いていた様だ。ただ結愛の返事は意外な物だった。
結愛「そう返してくれると期待していたよ、今みたいにちゃんと冷静な判断が出来る人間主任をしてもらおうと思っていたんだ。俺の「勘」って言葉だけで素直に首を縦に振ったらどうしようか悩んでたんだが、必要無かったみたいだな。」
ただまだ美麗は納得していない。
美麗「じゃあ本当は?どういう理由なの?」
結愛「元の世界での働きっぷりを見ていたんだよ、それにあのマンションで起こった火事の時の事も全部知っているんだぜ。俺が何も知らないで言ったと本当に思ったのか?」
美麗「やっぱりそうなんだ、結愛はそうでなくっちゃね。」
やはり物事には理由があるのだ。