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ロラーシュの修業についての話をしに行ったはずだが・・・。
-107 裏ルールと店長の気遣い-
渚は店の端の方で見覚えのある2人がしっぽりと呑んでいる事に気付いた、2号車の店主としての立場からすれば、時間帯的にレストラン内にいるはずのない2人だった気がしてならなかった。ただ折角のチャンスだと思い立ったのか、2人の方に近付いて声を掛ける事にした。
渚「あんた達、店はどうしたんだい?まさかサボっている訳じゃ無いだろうね。」
お気付きの方もいると思うが、店の端で呑んでいたのはシューゴとパルライの2人。
シューゴ「何を言っているんですか、貴女こそ人の事言えないんじゃないですか?」
パルライ「そうです、ある意味「同じ穴の狢」という訳ですよ。仲良くしようじゃないですか。」
修行で日本に行った時に覚えたと思われる難しい言葉を自慢げに使うパルライ、正直普段の会話で使った事も無いので少し驚かされてしまうのは俺だけだろうか。
渚「馬鹿な事言ってんじゃ無いよ、私はちゃんと有給届けを出してあったじゃないか。」
一応、屋台含めて今ある店舗の店主の誰かに届け出を出せば有休を取得する事は可能だが、不正防止の為に店主として勤める者達は別の店舗の店主に届け出を提出するというのが「暴徒の鱗」での「裏ルール」(但し「ビル下店」のオーナーである好美は何故か対象外)となっていた。
パルライ「何処に出したって言うんです?私は聞いてませんけど。」
シューゴ「そうですよ、誰に提出したんですか?」
店主が有休を取得した場合は念の為に全店舗の店主に連絡しておく、これも「裏ルール」として決まっていた。
渚「「誰」って、あの子に決まっているじゃないか。」
渚は好美の方を手差ししていた、相手を不快な気持ちにさせない為の工夫だ。
パルライ「そりゃ私達が知らない訳ですよ・・・。」
シューゴ「渚さん、「ビル下店」で提出するなら好美ちゃんじゃなくてイャンダさんに言わないと。」
シューゴの言葉が聞こえて来たのか、好美が3人の元へと近づいていた。ボキボキと指を鳴らしながら・・・。
好美「私が・・・、何だって・・・?」
いち店舗のオーナーとして聞き捨てならない一言にイラっとしたのか、表情は「鬼の好美」の物になりかけていた。
シューゴ「やだな好美ちゃんは、以前から「ビル下店」での事はイャンダさんに一任するって事になっていたじゃないですか。」
至って冷静に応答するシューゴ、ただ好美も後に引けなくなった様で・・・。
好美「私だって経営者だもん、ただのオーナーじゃないもん。」
何となく一度は言ってみたい台詞に周囲の者達は若干引いていたらしい。
パルライ「じゃあ好美ちゃんを対象者の1人とするなら、ルール違反をしたのは好美ちゃんという事に・・・。」
好美「し・・・、知らなかっただけだもん・・・。」
確かにこの「裏ルール」は好美が「ビル下店」のオーナーとして加入する前に決まった物だったので、伝わって無いのは無理もない。ただイャンダだけは知っていた様で・・・。
イャンダ(念話)「3人共すみません、俺が敢えて好美ちゃんに言ってなかったんです。王城やコンビニでの仕事との兼ね合いで大変になると思ったんでね。」
どうやら必死に『念話』で謝る店長なりの気遣いだった様だが、それが裏目に出たらしく、好美は自分が仲間外れにされたみたいな感覚になっていた。
好美(念話)「嬉しいけど、何か酷い・・・。」
イャンダ(念話)「悪かったよ、今度のおつまみ多めにするから許してよ。」
我儘なガキかよ・・・。