104 特別編④
今回も「特別編」です。
-104 特別編④・互いが好きだった物-
希はノームの天然発言にツッコミを入れた後に、頭を抱える男性を連れて医者達により用意された病室へと入った。あまり刺激を与えないでという自分の忠告を守れる様にとの気遣いからか、部屋は個室で用意されていた。
男性「良いんですか?こんな私の為にこんな良い部屋を用意して頂いて・・・。」
希「何を仰っているんですか、今は甘えていて良いんですよ。」
医者「署長さんの仰る通りですよ、今はゆっくりと過ごして下さい。まぁ、ずっといられても困るんですけどね。」
医者による皮肉さたっぷりのジョークが飛び出した後、ノームが診察に連れていたあの女性が病室に入って来た。この世界で長く住んでいるはずの希でさえ余り見た事の無い青い薔薇の花束を抱えて・・・。
男性「貴女は・・・。」
女性の姿を見た男性は一言だけ漏らした後に涙を流し始めた、ただその横で女性はただ首を傾げていた。お互いが記憶喪失になっているので致し方ない事なんだが。
女性「あの・・・、私の事をご存知なんですか?」
必死に自分の事を思い出そうとするあまり、持っていた花束を落としてしまった女性はベッドの布団を強く握りしめて男性に訴えた。
女性「教えて下さい!!私は元の世界でどんな人間だったんですか?!名前も教えて欲しいんです、身分証明書にはこっちの世界で名乗っている仮の名前を記載しているので全く知らないんです!!」
女性の必死の訴えに答えようとする男性、しかし何も思い出せないのが悔しくて堪らなかった。ただ1つを除いて・・・。
男性は痛む頭をずっと抱えながら女性に語り掛けようとした。
男性「あの・・・。」
しかし男性の言葉は、入室して来た看護師により遮られた。はぁ・・・、何と空気の読めない看護師だ。
看護師「失礼しますねー、大丈夫ですか?あのですね、入院している間はこの入院着に着替えて下さいね。先生方が診察に来られた時にスムーズに進める為の物ですからお願いしますね。」
男性「は・・・、はぁ・・・。」
男性は手渡された緑色の入院着に着替えようとした。
女性「あの・・・、私売店で買い物をしてきますね。」
女性なりの男性に対する気遣いという奴だろうか。
女性「何か欲しい物は無いですか?食べたい物とか。」
男性「そうですね・・・。」
女性の顔をじっと見た男性は何かを思い出したかの様に女性に答えた。
男性「あの・・・、プリン・・・、プリンをお願い出来ますでしょうか?」
女性「はっ・・・!!」
「プリン」という言葉に異様な反応を見せた女性は嬉しそうに病室を飛び出していった。
女性「分かりました、待っていて下さいね!!」
勢いよく飛び出して行った女性の目には小粒の涙、何かを思い出したのだろうか。
男性「あの人の顔、やはり微かに何かを思い出せそうな気がしたんだよな。」
男性は入院着に着替えると再びベッドに身を委ねて数秒程窓から見える空を眺めた後に、元々着ていたスーツから煙草を取り出して火を点けようとした。すると・・・。
看護師「こら!!この病院内は全館禁煙です!!それに病人がご自分の体をより悪くする行動をしちゃ駄目でしょうが!!」
男性「あ・・・、す・・・、すみません!!」
作者も入院中はずっとコーラばっかり飲んでました。




