表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/9

(13)

 少し威力が大きすぎたようで、周辺は火の海になっていた。「焦げるっ、焦げるっ」としがみついてくるトープの暑苦しさに辟易しながら、レオンはじっと待った。

 まもなく炎の勢いに紛れて「レオン!」と呼ぶ声がした。徐々に弱まりはじめた火の先から現れたホーラー教官の顔を見て、ようやくレオンは安堵に肩の力を抜いた。

 ホーラー教官が炎の波を飛び越えてくる。武闘学科生に比べると神法学科生は運動が得意でない生徒が多いが、ホーラー教官の身のこなしは軽やかだった。

「大丈夫か? 発作は起きてないか?」

 両肩をつかんで顔をのぞき込んでくるホーラー教官に、レオンは笑った。

「ちょっとあやしくなったので、最後の一発前に薬を飲みました」

「そうか……まったく、頑張りすぎだ。でもよくやった」

 わしゃわしゃと髪をかきなでられる。

「時間稼ぎには十分でしたか」

「ああ、見てみろ」

 ホーラー教官がようやく炎の鎮まった周囲をあごで示す。いつの間に現れたのか、檻の外は警師団と警兵があちこちで観客を縛り上げていた。

「一人残らず、だな」

 マンティスもしっかり捕縛されている。そして自分たちと攻防戦を繰り広げていた獣は、警兵のマルクたちが仕留めていた。

 そのとき、仮面をつけた琥珀色の髪の男性がやってきた。

「ご苦労だった、レクシス。それから、レオン・イクトゥス。よくここまで粘ってくれた。おかげで全員捕らえることができたよ」

 仮面を外した男性は自分の両親より数歳年上だろうか。凛々しさと気品が融合した、魅力的な容貌をしていた。そして彼に付き従う団員も仮面を外したが、枯草色の髪に薄青色の瞳のその男性は、誰かを力でねじ伏せるようにはとても思えないほど優しい顔立ちだった。

「よう、アルス。相変わらずゆるい顔だな」

 遠慮のないホーラー教官の言葉にレオンはぎょっとしたが、相手は涼やかに微笑した。

「久しぶり。犯罪者に間違われないために警兵になったって聞いたけど、正解だったみたいだね」

 教官にも見えないけど、と彼がレオンを一瞥する。ついうなずいてしまったレオンを、ホーラー教官が横から肘で小突いた。

「欲と自己保身に固執する連中は警戒心も強いが、アルスには油断するから重宝してるよ。腕も立つし、とても頼りがいのある団員だ」

 今回の入場券も、アルスのおかげで()()()()()()ことができたんだよと言う琥珀色の髪の男性に、「恐縮です」とアルスが一礼し、改めてレオンに目を向けた。

「すごい法術だったね。まだ一回生なのに……ずいぶん練習したのかい?」

「もともと素質は十分だからな」とホーラー教官が先に答える。 

「ホーラー先生の授業でやったことが役に立ちました」

「だろ? 俺の先見は昔から定評があるんだ」

 得意げにふんぞり返るホーラー教官に、「それは初耳だ」とわざとらしくアルスが驚いたふりをし、場が笑いに包まれた。

「とはいえ、この状況ですぐ応じられる技量と度胸は本当に見事だな。しかも杖なしで……さすがは代表だ」

 ホーラー教官がレオンの肩を抱いてアルスたちを見た。

「今年の交流戦は期待していいぞ」

「このところ連敗続きだそうだからね」とアルスもあごを軽くなでる。

「そういえばお前のところ、五人目ができたって? 家族で冒険集団を作る気かってバトスが言ってたぞ」

「ウェーナは仲間と冒険に出たことがないから、それもいいかなって話してたんだけど、みんな守護神が水の女神だとさすがにね」

 攻撃できる神法学科生がいないのは困るとアルスが苦笑する。ホーラー教官も「子供の守護神は親と同じになることが多いからな」と訳知り顔でうなずいた。

 まもなく、連行の準備ができたと団員が報告に来たため、館内の捜索は警兵に任せて警師団は引き上げていった。

「先生、さっきの人ももしかして……」

 獣の死体の検分や、行方不明だったトープを保護したことで、警兵が慌ただしく駆け回る中、マルクにもらったお茶を飲んで休憩していたレオンは、同僚から何か報告を受けた後でやってきたホーラー教官に尋ねた。

「俺やニトルと同じ冒険集団にいた奴だ。当時は剣専攻代表で、武闘館に行っても総代表や副代表を経験している。見た目はゆるゆるだが、強いぞ」

 やはりとレオンは納得した。ホーラー教官は比較的誰に対してもくだけた態度だが、ロードン教官やアルスには特に親しさがにじんでいたのだ。

「他にはどんな人がいたんですか?」

「学年一の秀才と、学院一の軟派、それから双子がいた」

 双子か、とレオンはフォルマを想った。ホーラー教官がレオンの頭をぽんとたたく。

「フォルマも他の奴らも本当はここへ来たがってたんだが、さすがに連れてくるわけにはいかなくてな。みんなお前が無事に戻ってくるのを待ってるぞ」

「チュリブは?」

「詳しくは聞いていないが、クソ叔父にけがをさせられて動けないようだ。あいつも頑張ったから、元気になったらみんなで慰労会だな」

 そこへマルクが現れた。レオンとトープが乗る馬車の用意ができたという。

「……トープと一緒ですか」

 眉間にしわを寄せるレオンに、マルクが苦笑した。

「いや、二台にしたよ。彼も君と同乗するのを嫌がったから……まあ、臭いもあるしね」

 さすがに下着の替えは持ってきていなかったので、トープはそのまま履いているらしい。獣の相手をレオン一人にさせたあげく、大騒ぎのすえに粗相もしたのだから、会わせる顔などないだろう。

「先生は一緒に帰らないんですか?」

 話したいことがたくさんあったが、ホーラー教官はかぶりを振った。

「俺はここで確認するものがあってな。後で詳しく教えてもらうから、今日のところはまずゆっくり休め」

 そしてホーラー教官は、レオンをぎゅっと抱きしめた。

「本当に……無事でよかった」

 そのつぶやきに誰かを悼む気配を感じたが、レオンを放したホーラー教官はいつもどおり悪人のような目つきで笑っていた。



 貴族は警師団、それ以外の者は警兵が取り調べを進め、残虐な『賭け事』の全容が明らかにされた。

 獣への挑戦者として犠牲になった子供は皆、孤児だった。例外はトープだが、それはデルフィーニー親子への怒りからマンティスが誘拐を命じていたとわかった。さらにマンティスは、チュリブの両親が乗っていた馬車に細工をしたことも白状した。すべては遺産目当てだったと。

 侍女プレヌの証言もあり、チュリブへの虐待を認められたマンティスは保護者の権限をはく奪。死刑が言い渡された。また『賭け事』に参加した者たちも相応に処罰されることとなった。

 その日、レクシスは神法学院で教鞭をとる友人を訪ねた。

 水の法担当教官カルフィー・リベルと向き合って座ったレクシスが、水の紋章石のついた腕輪を差し出すと、カルフィーの瞳が一度見開かれ、揺れた。

 それは賭博場の地下に、他の遺品とともに『戦利品』として並べられていた。保管書類から、彼を食らったのはレオンが最後に対峙した大型の獣だとわかった。

 水の法には攻撃の手段がない。『誘眠の法』で眠らせることはできても、法術ではとどめをさせない。彼がどう戦い、どう命を落としたか、記録にはそこまで詳しく書かれていなかった。

「チュリブを恨まないでやってくれ。あいつは慕っていた家庭教師がどうなったか知らない。家庭教師のほうから付き合いを断ってきたと聞かされていたから、自分に愛想をつかしたと思い込んでいるんだ」

 沈黙したままのカルフィーに、レクシスはぽつりぽつりと語った。チュリブの遺産を確実に手に入れるため、チュリブと親しくなる年の近い男の子をマンティスはことごとく排除してきたのだ。今回はそれを利用してレオンに協力してもらったことも話した。

 長い間黙っていたカルフィーは「そうか」とだけ答え、一つ息をついた。

 扉がたたかれ、別の水の法担当教官が顔を出した。そろそろ専攻会議の時間だとうながされたので、レクシスは腰を浮かした。

 カルフィーものろのろと立ち上がる。かける言葉が見つからないレクシスに、やがてカルフィーが消え入りそうな声で呼びかけた。

「……ハブロを見つけてくれて……ありがとう」

 レクシスの肩に額を押しつけ、カルフィーが感謝の意を述べる。

 冒険していた頃はどんな苦境に陥っても冷静に対処していた旧友が心乱して泣く初めての姿に、レクシスもまた目元を濡らして抱擁した。



 家まで送り届けられたレオンは、まず一番にフォルマに抱きつかれた。さらに子供二人を両親が抱きしめ、イクトゥス家はその夜、床に敷布を広げ、四人でかたまって眠りについた。

 翌日は少し熱があったので学校は休み、自宅を訪れた警兵のマルクたちに体調を気づかわれながら、拉致された後のことをできるだけ細かく報告した。

 次の日、登校したレオンは、トープが自分の身に起きたことを誇張して言いふらしているのを知った。手ごわい獣を相手に、慣れない剣一本でいかに勇敢に戦ったかを声高に自慢している場に遭遇したレオンは、犯人がチュリブの叔父だったことまでばらしたトープに腹を立て、「鼻水垂らして助けを求めて泣きわめいたあげく、盛大に漏らした奴がえらそうに言うな」と暴露した。

 トープはレオンの存在を隠していたらしく、明らかになった事実に聴衆は怒って徹底的にトープを非難し、追い払った。代わりに囲まれて質問攻めにされたレオンは、しゃべってもいいと警庁から許可をもらっているところまでを話したが、数歩進めば誰かに捕まるので、一日が終わる頃には疲れ果てていた。

 チュリブは水の法の治療を受けるまでに少し時間がたってしまっていたため、完治も遅れるという。今は主のいない屋敷を出て学院寮に移ったと、レオンはホーラー教官から聞いた。トープのせいで叔父のことが知れ渡ってしまったが、チュリブも虐げられて苦しい思いをしていたことを、本人の承諾を得てホーラー教官が同期生たちに説明したことで、チュリブに対しては同情が多く寄せられた。

 そして休日、キュグニー教官に呼ばれたレオンはリリーの家に向かった。レオンの体内にたまったものを取り除く方法についてだったので、レオンだけでもかまわなかったが、話が気になる人は来ていいと言われたので、結局七人全員が客間にそろうことになった。

「具合はどうだい?」

「すごくいいです。本当に先生のおかげです」

 キュグニー教官の薬を飲んでいなければ獣との戦闘中に倒れていただろうと伝え、レオンは改めて頭を下げた。

 今も日を追うごとに体が楽になっている。暑い時期は調子を崩してばかりだったのが嘘のようだ。

「この様子なら一年……遅くても二年後にはよくなってるはずだよ」

 一年間は薬を飲み、その次の一年は薬をやめて様子を見るとキュグニー教官は説明した。それでも発作が起きなければもう大丈夫だからと。

 長年続いた病の終わりが予想より早く見えたことに、レオンは驚惑すると同時に感激した。もしもっと前に――それこそルテウスと同じくらいの時期にキュグニー教官と出会っていれば、こんなに苦しまなくてすんだのにと思う一方で、ここまで引きずったからこそキュグニー教官の目にとまったのだとも言える。

 先にヘルツクロブフェン病と発作用の薬を代金との交換でレオンに渡してから、キュグニー教官は手元に置いていた包みを開いた。

 中にあったのは古い石板だった。ざわりと鳥肌が立ったレオンが皆を見回すと、オルトとソールも微妙な顔つきになっていた。

 違和感があるのは三人だけのようで、ルテウスたちはただ興味深そうに身を乗り出して石板に注目している。首をかしげたレオンに、キュグニー教官が告げた。

「これは炎王の石板と呼ばれるものだ。下等学院に模造品はあるが、本物は神法学院と神法院で管理されている。原則、外へは持ち出し禁止だから、他言しないように」

「お父さん、そんな大事なものを持って帰ってきて大丈夫なの?」

 もっともな質問をするリリーに、「あまり大丈夫ではないよ。ばれると非常にまずいのは当然として、うっかり破損でもしてしまったら、僕とイオタの首が飛ぶ」と語るキュグニー教官は、いつもどおりの冷静な態度だった。

「それでも用意したのは、レオンと縁のある使者を知るためだ」

 部屋のとまり木に飛んできたクルスに視線を投げてから、キュグニー教官は言葉を続けた。

「レオンの体内にたまった不純物のかたまりを除去するには、現在開発されている薬では不可能だ。だから昔イオタがやった方法を最初は考えたんだが、もっと楽な手段を思いついてね」

 キュグニー教官が石板に書かれている文字の一つにそっと触れる。とたん、ぼっと炎が立ち昇った。

 驚き慌てる七人の前で、キュグニー教官は石板から放した手を軽く振って火を消した。手首まで炎にのまれていたのに、やけどさえしていなかった。

「この石板には、炎の神を中心に十一の使者の名が刻まれている。炎の神の守護を受ける者と、例外的な一部の人間は、この石板を見ただけで何か感じるものがあるはずだ。そしてそういう者が特に縁のある使者の名に触れると、今のように炎が上がる。レオン、一つずつさわってごらん」

 けがはしないから心配ないよと言われ、レオンは恐る恐る石板に近づいた。

 炎の神も使者の名前も古代語で書かれているようだ。古代語は神法学院で習うものなので、まったく読めない。

 そばに寄ってきたルテウスがじっと石板を凝視する。ルテウスは独学で古代語を学んでいるので、自分よりは知識がある。

「ルテウス、わかる?」

「……いくつかは読める」

 レオンの問いかけにうなずいたルテウスはしかし、いつものように即答しなかった。キュグニー教官がレオンのために準備したものだから、でしゃばるのをやめたのだろう。

 レオンは一度生唾を飲むと、震える指でまず円の一番上にある使者の名にさわった。

 何の反応もない。同じく緊張していたらしい他の六人がほっと息を吐き出した。

「それは紋章の使者トリアングルムだよ。じゃあ、次」

 レオンは時計回りにいくことにした。

「光の使者ポース……熱の使者アエストゥス……力の使者イスキュース」

 都度キュグニー教官が回答していく。なかなか変化がないことに、レオンは安堵と不安が高まった。

「闘いの使者マケスタイ……勝利の使者ニーカーン……勇気の使者フォルティトゥードー」

 まだなのか。

「意志の使者ウォルンタース……赤の使者エリュトロス」

 残るは二つ。

 触れた名前に大きく鼓動がはねた。まさか発作かと警戒したレオンの目の前で、いきなり炎がわいた。

「あっ」と六人が叫ぶ中、キュグニー教官は青い瞳を細めた。

「太陽の使者ソール」

「……ソール?」

 全員のまなざしが、困惑顔で凝然と立つ仲間の一人にそそがれる。

「予想どおりだ。君と縁の深い使者と同じ名前の人物がここにいるのは、やはり偶然じゃない」

 ちなみに最後の一つは昼の使者メセーンブリアーだよと言って、キュグニー教官は椅子の背もたれに寄りかかり、膝上で手を組んだ。

「君はソールと一緒にレオニス火山に向かい、太陽の使者ソールの木の実を取ってきてほしい。それで下剤が作れる」

 もちろんここにいる七人で行動してかまわないが、木に近づくときだけは二人で行くようにとの指示に、レオンたちはとまどった。

「実って、この時期になっているんですか?」

「いや、条件がそろえばいつでもできる」

 レオンの質問にキュグニー教官は答えた。

「使者の木に同じ名前の者が接近すると花が咲くんだ。そしてその者が花に触れれば『受粉』の現象が起き、実がなる」

「……つまり、ソールの子供ができるんですね」

 レオンの発言に、仲間たちがガタガタとよろめいた。

「お前、その言い方はなんか卑猥じゃないか?」

 たしなめるオルトに、レオンは「そう?」と首を傾けた。なぜオルトが照れる必要があるのか。皆をかえりみると、耳をきれいに色づかせたソールが机に突っ伏している。その隣ではリリーも真っ赤になってちらちらとソールを盗み見ていた。

まあ、普通は自分と同名の木よりは人間の女の子と子作りしたいよねと、レオンはにやけそうになった。からかうと殺されそうなのでやめておくが。

「実をもぐのは君自身だ。木へ語りかける文言は後で教えよう。かなりきつい下剤になるだろうけど、放っておいても不純物は体にたまったままだから、ここで頑張って外へ出してしまおう」

「そんなにきついんですか?」

 追加情報にレオンはおののいた。

「長くて三時間くらいは下痢が続くと覚悟しておいてほしい」

 早くに体外へ排出できれば、そのぶん時間も短くなるよと、何の慰めにもならないことをキュグニー教官が口にする。

「……もう少し緩やかに出るとか、例えばソールの実が体内で分解してくれるとか、都合のいい展開は期待できないってことですか」

「それができるとありがたいんだけどね。ただ、腹痛は起きないよう使者が助けてくれる。出るのがとまらないだけだから」

 想像したのか、フォルマとルテウスが派手に吹き出す。つられて他の仲間たちと、さらにはキュグニー教官にまで苦笑されてしまい、レオンは恥ずかしさに口の端を曲げた。

「太陽の使者ソールの木は太陽の動きにあわせて高さが変わるから、できるだけ早朝か夕方に取りに行ったほうが楽に手が届くよ。注意点は三つ。日が暮れてしまうと実はならず落花する。それから、実を取ったらすぐに木から離れること。もし木に攻撃された場合、レオンとソール以外の者が戦うこと」

 それ以外は特に難しい面はないので、使者の木の中では扱いやすいほうだという。

「ああ、クルスは今回は留守番しておくように。太陽の使者の木はカラスが多いんだ。たいてい人間の目当ては木のほうだからか、巣を狙わないかぎり襲ってはこないけど、鳥はなわばりに入るだけで喧嘩になってしまう」

 クルスがひと鳴きして、ソールの肩に飛んでくる。ソールの手料理を食べられないのが残念だと言わんばかりに、クルスはソールの耳をかじった。

 では次の休日に出発し、夕方に採取しようと話が決まったところで、オルトが「ファイおじさん、俺も試してみていい?」と尋ねた。

 オルトも自分と縁のある使者に興味があるらしい。めったにお目にかかれない貴重な本物なのでなおさらだろう。

「いいよ」

 許可をもらったオルトが嬉々としてそばにいく。しばし石板を見つめてから、オルトも順番に使者の名前に触れていった。

 やはり時計回りに進むと、レオンより早く反応が出た。

「今回の試練がオルトでなくてよかったよ」

 一度眉をひそめてから、キュグニー教官は息をついた。

「闘いの使者マケスタイだ。これは使者の中でも一番危険なんだ。近づく者は容赦なく攻撃するから、挑むなら命がけになる」

 イオタもこれにはてこずったんだと、キュグニー教官が当時のことを語る。十一の使者の木をすべて回るのも大変な作業だが、そんな物騒な木の枝を一人で折らなければならないなど、自分にはとてもまねできない。

 この集団にソールがいてくれてよかった。偶然ではないというキュグニー教官の言葉を、レオンは胸内でしっかりとかみしめた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ