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ABCD殺人事件  作者: 真山砂糖
19/36

19 第三の事件発生

また事件が起こるの?

 翌朝、私はいつも通り出勤した。すると、すぐに所轄署からの電話が鳴った。受話器を取った課長は、真剣な表情になっていった。

「殺しだ。場所は、国際インターナショナル大学」

 その場の全員が驚きのあまり絶句した。数秒してから、係長が勢いよく立ち上がって上着を着た。

「おう、行くぞ!」

 係長は号令を掛けた。


 大学へ到着した。すでに所轄署のパトカーが何台も止まっていた。制服警官が誘導して、私たちは緊急車両のまま第三研究棟の生命科学研究科まで来た。

 出入り口の外では、千葉ラボとデービスラボの人たちが所轄署の刑事から事情を訊かれているようだった。

 私たちは研究棟に入り、警官に案内されるまま進んで行った。二階のデービスラボまで来ると、鑑識係が作業していた。テーブルの上の物がいろいろと散らばっていて、奥で男性が血を流して床に倒れていた。

「おう、誰だ? トム・クーパーじゃないよな?」

「あー、この人ー」

「シャ・コクリュウ准教授です」

「おいおい、マジかよ。ここの大学院から三人目だぞ」

 シャ准教授の首は鉄製の細長い棒で貫かれていた。

「実験器具でしょうかね?」

「だろうな。殺しで間違いないだろ」

 被害者の状態を観察していたら、ふと、気がついた。高木先輩と嶋村先輩の二人が、壁の方をじっと見ていたのだ。

「小春、あれ!」

 京子が珍しく何かを指差して叫んだ。私はその方向を見た。壁に掛けられた巨大な黒板に、大きく赤色のチョークで「C」と書かれてあったのだ。

「おいおいおいおい、マジかよ」

 みんな微動だにせずに、そのCをしばらくの間見つめていた。

「A、B、C。これでもう偶然じゃないな」

「ええ、そうですね、係長」

「でもー、どうして、シャ准教授なんですかー。Cで始まらない名字ですよねー」

「おう、そうだな。どうして……」

 ある程度状況を確認できたので、私と京子と係長は関係者を事情聴取することにした。


 私たちは、研究棟から出た。すでに教務棟に警察が使える部屋が手配されていて、そこに関係者が集められているということだった。私たちはそこへ向かった。第一発見者は、デービスラボ所属の大竹ただお助手と飯島ときこの二人だった。

 大竹助手から聴取を始めた。

「朝、駐輪場に自転車を止めてたら、ちょうど飯島さんがバイクで来たんです。だから二人でラボに行きました。部屋に入ったら、机の上のものが荒らされてるみたいで、なんか変だなと思いました。実験台の向こう側を見ると、床にシャ先生が倒れていました。血が流れてましたので、緊急通報しました。まさか、こんなことが……」

「発見時、何かお気づきになったこととかはありませんか?」

「……いえ、特に何も」

「シャ准教授の首に刺さっていた細長い鉄の棒ですが、実験に使われる物でしょうか?」

「はい、実験スタンドっていうやつです。あれにアームをつけて、そこにビーカーとかをぶら下げて使う物です」

「なるほど。デービスラボから、これで亡くなった方が三人目です。どう思われますか。デービスラボか、あるいは、大学院の関係者を狙った連続殺人の可能性があります。何か心当たりはありませんか?」

「……いえ」

「Cと黒板に書かれてありましたが、どういう意味かわかりませんか?」

「……いえ、全く……」

「そうですか、ありがとうございました」

 大竹助手は時々下を向いて目をキョロキョロさせながら何かを考えているように見えた。


 次は、飯島ときこさんに来てもらい、京子が聞き取り役をすることになった。飯島さんは恐ろしさで手が震えているようで、大竹助手と同じ内容のことを興奮しながら話した。

「大竹さんが緊急通報するから、誰かを呼んできてほしいと言ったので、私は千葉ラボへ行って、助けを求めました」

「で、みんなで行ったけど、もうシャ准教授は亡くなってたってわけね」

「はい」

「シャ准教授で三人目です。おそらく、大学院関係者を狙った連続殺人だと思われます。

 飯島さんは、どう思われますか?」

 京子はいつものバカさを封印して、かなり真剣に尋ねた。

「そうですね、黒板にCって書いてありましたけど、全然意味がわからないです」

「どんなことでもいいので、何か心当たりとかはありますか?」

「……あの、実は、シャ先生は、デービス教授と揉めていたんです」

「揉めてた?」

「ええ、はい。大学の機密事項に関連することになるんですが……」

「大丈夫です。我々警察には守秘義務があります。捜査で入手した情報を漏らすことはありません」

 そう係長が言うと、飯島さんの肩の力が少し抜けた。

「……実は、うちのラボですごい発見があったんです。それを論文に載せるのに、筆頭著者を誰にするかで、二人は揉めていました」

「えーっと、わかりやすく言ってもらえますか?」

「あ、はい。発見をしたのは、シャ先生だったんですが、デービス教授が自分の手柄にしたがってました。基本的に発見者が筆頭著者として論文を書くのですが、デービス教授は自分を筆頭著者にして論文を投稿すると言い張ってました」

「手柄を横取りですか。ひどいですね」

「デービス教授は、シャ先生に対して、ラボを追い出すぞとか言ってたみたいです。それで、シャ先生は学内ハラスメント委員会に申し立てをしていました」

「研究の世界も大変なんですね」

 京子は同情したようだった。

「あ、そうだ、そういえば、デービス教授は今日はまだ来てなかったんでしたっけ?」

「まだみたいですね。教授は、日によりますけど、大体午後から来ます。それから夜遅くまで研究しています」

「連絡、取れますか?」

「あ、いえ、私らは、教授にはめったに電話しないんです。みんな、したくないんです。そもそも電話しても、教授は取らないんですよ」

「ふーん、そうなんですか」

 飯島ときこさんはかなり精神的に疲れているように見えた。


シャ准教授が亡くなりましたね。

Cで始まる名字ではないのにもかかわらず。

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