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第5話 御者の男

 俺達の目の前で立ち止まった小太りの男は、身長150センチほどの背の低めの男で、サスペンダーでとめられた茶色の七分丈のズボンの上には、デップりとしたお腹が乗っていた。


 汗かきなのか、カラフルな帽子を脱いで自らを扇いでいるが、眉の上で綺麗に切り揃えられた金色の髪の毛は、汗に濡れてピッタリとおでこに張り付いている。


 俺たちが男の様子を黙って見ていると、男は帽子を深く被り直し、人の良さそうな笑みを浮かべ丁寧な動作で頭を下げた。


「いやはや、これは大変申し訳ない。私はナーパ王国のジュリーク領を治めるシュミネ侯爵付きの御者、名をラフールと申します。どうぞお見知りおきを。」


 俺はその挨拶を受けて我にかえり、慌ててこちらも自己紹介をする。御者とは言っても貴族の従者だ。粗相があってはいけないかもしれない。


「えーっと…しがない冒険者のジャックです。こいつは…」

 俺はそこまで言ってから押し黙ってしまい、ダークエルフへと振り返る。


 ダークエルフは少し首を傾げているが、お前が名乗らなかったから困っているんだろうが…。


 まさかこいつは奴隷です。なんて紹介は無いだろうし、亜人であることを隠したいみたいだった。まあ、適当に言っておくか。


「こいつは護衛のエルダです。訳あってかなり無口なのですが、そこはどうかご容赦下さい。」

 俺はそこまで言ってから、御者のラフールを真似て、右手は指をそろえて開き胸の手前に、左手は背中に当てて左足を半歩後ろに下げて、頭を下げる。


 うむ。完璧かどうかはさておき、なかなか良い挨拶が出来たのではないだろうか。ダークエルフを文字ってエルダ。俺も頭の回転が早いな。


 俺の挨拶を聞いてダークエルフは小さく舌打ちをしたが、ラフールは更に口元をゆるめて笑顔を作り、ズボンをつり上げていたサスペンダーを両手の親指で弾き、パチンと音を鳴らした。


「私のような者にまでかように丁寧なご挨拶。大変恐れ入ります。一見したところどちらかのご貴族様とお見受けいたしますが、服が血塗れで馬車も持たないご様子。もしや近頃この界隈を賑わすという山賊どもに襲われたのでは?傷など負ってはおりませんかな?」


「いえ…元々歩きの旅でしたので馬車を持ってはいません。3人組の山賊に襲われはしましたが撃退いたしました。服は血で汚れていますが傷もありません。あと、勘違いされているようですのでハッキリと訂正させて頂きますが、俺は貴族ではありません。」


 俺が否定するとラフールは驚いた表情でこちらを見た。


「ほほう。貴方様方が山賊を撃退したのですか。」


「いや、俺達のような若輩者にやられるような者達です。きっとその噂の山賊ではなく、大した実力のない山賊だったのでしょう。」


「なるほど…しかしそれはそうと、ジャック様も面白いご冗談を申されますな。血に汚れてはおりますが、貴族でも無い者がその様なお召し物を着ているはずがございません。姿振る舞いからも、身分の高さが簡単に見てとれますぞ。」


 あれ?なんだか盛大に勘違いをされているな。ここはハッキリと言っておかなければならないだろう。


 俺が否定の言葉を述べようと口を開くと、ラフールは掌を広げてこれを制した。


「いや、大変失礼いたしました。国がこのような情勢にあっては、身分を隠すようなご事情もあるのでしょう。過分な詮索はいたしますまい。しかし貴方のような方を無視して見過ごすことも出来ませぬ。街までご一緒出来ないでしょうか。お嬢様がそう申しておりますので。」


 ラフールはそこまで言って、こちらの表情を窺う様な視線を向ける。


「お、お嬢様?」


 これは良いことを聞いた。恐らくあの華美な装飾の馬車に乗っているのは貴族のお嬢様なのだろう。

 ラフールは盛大な勘違いを続けているようだが、貴族のお嬢様を乗せた馬車にどこの馬の骨ともわからぬ男を一緒にさせるわけにはいかないだろう。これを口実に断りを入れるか?


「ええ! お嬢様です! 実は現在私はシュミネ侯爵のご息女であられるアシュリーエール様を、王都であるオモロの街まで御送りする最中なのですが、血にまみれた貴方様を見られたアーシェ様が貴方と街までご一緒したいと、そう申しておられるのです。ご希望とあらば替えの服も用意させていただきます。そのままのお姿では何かと不便もございましょう。ここはお嬢様のお顔を立てて、どうぞ街までご一緒させては頂けませんかな?」


 ラフールはそこまで言って、再び俺の表情を窺う。


「うーん。そうは言われても…こちらにはそこまでしていただく謂れも無いのですし」

 俺はなるべく申し訳なさそうな表情を作って、出来るだけ丁重にお断りをしようと試みる。


 確かに替えの服を貰えるのは嬉しいが、こんなに簡単に誘いに乗ってしまっても良いのだろうか? ここまで善意を向けられると、反って怪しくも感じてしまう。


 俺は困った表情のままダークエルフに視線を向ける。


 こいつは怪しいと思えば止めに入ると言っていたが、ここで止めに入らないと言うことはこの誘いに乗っても良いと思っているのだろうか。


「いえいえ、そのような事はございません。こちらといたしましても、もののついでで御座いますし。何より護衛が二人増えると、こちらとしても安全が増し安心でざいます。対価は充分にあるかと」


 確かに魅力的な提案ではあるのだし、護衛が増えるのだからラフールにとってもこれは有難い話なのか。ダークエルフはこれを見越して護衛と紹介された事に舌打ちをしたのかな?


「そこまで言っていただけるのならば、甘えさせて頂いてもよろしいのでしょうか。しかし、もう一度断りを入れておきますが、俺は本当に貴族でも何でも無いですからね?それでも良ければ、になりますが…」 


「ええ。ええ! それはもう解っておりますとも! 貴方様が何者であろうと、これは人助けが趣味のお嬢様の我が儘で御座います。ささっ! どうぞこちらへ!」


 こいつは本当に解っているのだろうか? ラフールは何がそんなに嬉しいのか、満面の笑みを浮かべて馬車へと案内の手を伸ばす。


 あれ? そういえばこいつ、山賊に簡単に組伏せられていたけど戦えるのかな?


 俺がダークエルフに視線を向けると、彼女は目元に怒りを浮かべて顔を反らせた。


 お…怒っているのかな?


「まあでも、あちらにも護衛がいるのだろうし。襲われるとは限らないのだから。なんとかなるだろう?」


 俺が言葉を取り繕うと、ダークエルフは先んじて馬車へと歩みを進めた。


 俺はそれを肯定と捉えて彼女に続くのだった。

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