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第19話 告白2

「俺は…俺の名前はジャック・サイコ・ドラクル。ドラクル公国を治めていたドラクル一族、ヴラド・ツェペシュ・ドラクルの息子の一人。ジャック・サイコ・ドラクルなのです」


「え、えぇ…?」

 俺の突然の告白を聞いて、アーシェ様とラフールにクロネは、間の抜けた声を出して口を開いたまま固まってしまう。


「ジャック様が…ドラクル?」

 アーシェ様が絞り出すように出した声に、俺は頷いて返した。


「ジャック・サイコ・ドラクルとしての記憶は一切ありません。知識も経験も何もなく。俺が得たのはこの身体のみ。それは恐らく、彼が兄エマールに心を殺された人形であった為だと思われます」


 俺の言葉を聞いて、クロネがアーシェ様の顔を見つめる。


 アーシェ様はフラフラと視線をさ迷わせた後に座ったまま眩暈を覚えたのだろうか、頭を抱えて隣にいたクロネの元へと体を預ける。

 

 クロネは顔を青褪めたままのアーシェ様を抱き締めて俺を見つめた。


 その視線は、俺を無遠慮に見定めるような、クロネから向けられる少し冷たい初めての表情だった。


 俺がその視線にたじろぐと、ラフールがこれまた初めて聞くような低い声で俺に尋ねた。


「ジャック様。それは冗談ではすまされませんぞ。本当の事なのですか?」


「事実です」

 俺は真剣な表情を崩さずに頷く。


「わかりません。何故、今その事を話されたのですか?貴方に害意は無いのでしょうか? 貴方に絶対的な忠誠を誓っているのであろう、これ程の武力を我々に見せたのは、我々を威圧して抵抗をさせない為なのですか? 初めてお会いした時から今の今まで、我々の信頼を得て、この様な状況を作り出すつもりであったのですか? 王都ナーパの前に光の人々がいたのは偶然なのですか? 私共とジャック様が街道で出会ったのは、偶然では無かったのですか?」


 ラフールの視線は、人の良さを感じさせる柔和なものから、その視線だけで心臓の弱いものなら殺せてしまいそうな程の鋭さに変わっていた。


「違います! そうではないのです! 俺は自分がジャック・サイコ・ドラクルで有ることを、昨夜初めて知りました!」


 俺が否定しながら一歩前に歩みでると、ラフールは腰に指した剣を抜きテーブルを飛び越えてアーシェ様の前へと躍り出る。


「っ!」

 俺はそれに驚いて動きを止めた。

 ラフールのその視線は、間違いなく敵に向けるそれだ。これ以上前に進めば、彼は問答無用で俺に斬りかかるだろう。


「本当に、昨夜初めて知ったと? 貴方は初めて会ったあの時、馬車の中で私達にドラクルの事を尋ねました。あれは家族の情報を聞き出すためではなかったのですか?」

 片足を出して動きを止めたままの俺に対して、クロネは尋問するように言葉を投げ掛けた。


「あの時は、この世界に来たばかりで…本当に何も知らなかったのです。俺がジャック・サイコ・ドラクルの中に入る前から、一緒に旅をしていたらしいダークエルフにドラクルと呼ばれたので、それがどの様な一族なのかを聞き出すために質問したのです。確かに…俺がジャック・サイコ・ドラクルであるかもしれないとの疑念はありました。ですが、その時に確証は無かったのです」


 俺の言葉を聞いて、クロネは片方の眉を吊り上げて再び押し黙る。

 ラフールは剣を構えて俺を睨み付けたままであるし、アーシェ様はクロネの胸に抱かれたまま、俺に向かって戸惑う様な視線を向けている。


 俺の期待はハズレ、アダムとエリシオスが言った通りの展開になってしまった。


 ラフールが剣を抜いたのにも関わらず、プレイヤー達が片膝をついたままピクリとも動かないのは、事前にこうなることを見越していたアダムの指示によるものだ。


 アーシェ様達に信じて欲しい俺と、俺を疑っているアーシェ様達。場が凍りついて、お互いに睨みあいが続く。


「それで…ジャック様はドラクルとして何をなさるおつもりなのですか?」

 沈黙を破ったのは剣を構えたままのラフールだ。


 ラフールが構えた剣が微かに揺れて、天井にぶら下がったランタンの光を反射して怪しく照り返す。

 俺の答えによっては斬りかかるつもりなのだろうか。


 正直言って、ここまで緊迫した空気になるとは思ってもいなかった。アーシェ様達から来るであろう質問の答えを用意していたわけではない。


 俺は楽観的過ぎたのかもしれない。人の良いアーシェ様達なら、俺の事を簡単に信じてくれるだろうという甘い考えしか持っていなかった。


 楽観的な考えしか持てなかった過去の自分に心の中で悪態をついて、俺は身にまとった衣服を脱ぎ捨て始めた。 


「ジャック・サイコ・ドラクルは、心を持たない傀儡です。彼に俺と統合するような心はない。俺に、ドラクルとしての意思はありません。ドラクルとして成したい事など、何もないんだっ!」


 そう話しながら衣服を脱ぎ捨ててパンツ一丁になった俺は、止めた歩みを再び動かし、ゆっくりと3人へと近づいていく。


 どうしていいか解らない。解らないから取り敢えず裸になる。武器などを持っていない事を見せる事で何となく誠意を示せそうな感じがした。それだけの考えで。


 一歩ずつ歩み寄る俺に向かって、ラフールはその剣先を固めたままだ。


 正直言って怖いが、どうしていいのか解らないので、取り敢えずその剣の先に俺の喉元を押し付けてみた。

 力加減を間違えて、俺の首筋からチロリと血が流れ落ちる。皮膚がピリピリと痛む。


 俺が痛みに顔を歪めると、ラフールの鋭かった眼光が少しだけ和らぎ、戸惑いの表情を浮かべた。


「な、何をされているのですか!?」

 ラフールが戸惑いを言葉にのせ、その後ろに控えていたアーシェ様とクロネも疑問を浮かべるように眉を寄せる。


「俺の名前はジャック! ジャック・青薔薇の騎士(ブルーローズナイト)! 青薔薇の盾となり全ての災いを防ぎ! 青薔薇の剣となりて全ての災厄を切り捨てる者!」

 困ったときは取り敢えず大声。何でもないこともそれらしく聞こえるって婆ちゃんが言ってた。


 しかしやはりと言うべきか、俺の言葉の後、硬直した空気が崩れることはない。

 どうしよう。これ以上何も思い付かねえや。ちょっと待って、今考えるので、沈黙だけはやめてください。マジで。緊張して何も思い浮かばないんで。


 俺が焦っていると、今度は俺の後方から低く渋い声が大声を上げる。

 

 「我等は青薔薇の盾ブルーローズ・ガーディアンズ! 青薔薇の盾となり全ての災いを防ぎ! 青薔薇の剣となりて全ての災厄を切り捨てる者!」

 声の主は天使アダムだ。俺の心情を理解して、場を繋ぐために大声をあげてくれたのかもしれない。

 良いぞ! ナイスアシストだアダム!


 俺が心の中で感嘆の声を上げると、アダムの声に続いて他の光の人達が大声を上げる。


「「「「「「「「「我等は青薔薇の盾ブルーローズ・ガーディアンズ! 青薔薇の盾となり全ての災いを防ぎ! 青薔薇の剣となりて全ての災厄を切り捨てる者!」」」」」」」」」


 1318人の大合唱。船内の空気がビリビリと震えるような錯覚を覚える。


 あ、熱い!

 なんて熱い展開なんだ! 格好良すぎる展開に、俺の心は舞い上がる。


 この舞台の中心にいるのは間違いなく俺っ! アダムが用意してくれたこの劇を、見事に演じきってやろう。


 未だ戸惑いの中にいるアーシェ様達をほったらかしにして、俺の劇は続く。


「天使アダムっ! いや、青薔薇の盾のアダムよっ! どうやら俺は青薔薇にとっての災いの様だ。このままでは俺達の存在に矛盾が生じる! そうではないか!?」

 ラフールの剣先から首を離した俺は、クルリと身を翻してアダムの目の前へと歩み寄る。


「はい…」

 アダムの目の前に立った俺に向かって、アダムは低く、しかし良く通る声で返事を返す。

 憂いをおびたその瞳は、跪いた状態から俺を見上げていると言うのにも関わらず、どこか視線を落としているような、涙を堪えて何かを我慢しているような、そんな哀愁を纏っている。


 役者としての演技が堂に入っている。アダムは中々の役者だ。ならばこちらもさらに応えよう。


青薔薇の盾ブルーローズ・ガーディアンズの総隊長として、最初で最後の命令を下す! その腰に差した剣でっ! 目の前の災厄を斬り捨てろぉっ!」

 俺の言葉を聞いて、アダムはついに流れ落ちた大量の涙を拭いながら、ガクガクと膝を震わせて崩れ落ち、地面を殴りつけた。


「で、できませぇぇん!」


「何を言っているんだっ! 頭脳(ブレーン)のお前がそれでどうする!? アダムよ、これからはお前がこの隊を率いていくのだっ! 目的を、見誤るなっ!」

 俺が一喝すると、アダムは目元を抑えて泣きはじめた。男泣きだ。化け物の風体の割に格好いいじゃないか。


 俺はそのまま視線を流すと、各隊の隊長達をゆっくりと眺め回す。


 皆が戸惑いの表情を浮かべて、アダムと俺を見つめている。


 何だこの大根役者どもは、演技のえの字も知らないど素人共め。

 丁度良い機会だ。俺が直接演技とは何かを教えてやろう。

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